婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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貴方がそれを望むのなら

第四話 相談しにきました

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 嫉妬で冷静な判断ができなくなるってよく聞きますが、幸いにも、そこまで取り乱すことがなくてよかったですわ。日頃の勉強と鍛錬のおかげですね。

 内心、腕は切り落としてやろうとは思いましたが。まぁあと、十秒触れていたら落としていましたね。

 それは別として、あの泥棒猫リーナ、気になる単語と言い回しをしていましたね。そのことに本人が気付いてない様子。無意識に口から出た言葉になりますよね……それに、少し変わった魔力を持っていましたし、気になりますね。こういう時は、あの御方に訊く方がよろしいかも。竜人の生態にも詳しいですし、そうと決まれば、賄賂を持参して向かいますか。

 開店前にお菓子屋さんに並ぶのは久しぶりですわ。よく討伐帰りに並んでましたね……

「……このお店も、シオン様と行く約束をしてましたね」

 ポツリと呟いていました。

 シオン様なら、私が今どこにいるのか、その嗅覚でわかるはずなのに、追い掛けてもきてくれませんね。まさか、泥棒猫を追い掛けたのでしょうか。

 一つ一つ、何気ない、だけど大切な口約束がほごにされていく……私たちの口約束は、淡雪のように、すぐに溶けてなくなってしまうものだったのかもしれません。それでも、隣で一緒に空を見上げ、淡雪を鑑賞したかった。

 これが仕事なら、私は納得し、苦しむこともなかったでしょう。でも、今回は違います。ほごにされる度に私の心に容赦なく激痛が走ります。

 せめて、この痛みが慢性化しませんように――

 そう一人で、私は曇っている空を見上げ祈りました。





「……結婚したと聞いてはいたが、なぜ、セリア一人できたのだ?」

 黄金竜であるお祖父様が、訝しげな表情で尋ねてきます。

「そうですよね。結婚の挨拶なら、シオン様と一緒ですものね……」

 私が力ない声でそう独り言のように答えると、お祖母様がソッと私を抱き締め、室内に通してくれました。私は並んで買った手みあげを渡します。

「なにがあった?」

 私を座らせると、お祖父様が向かいに座り訊いてきました。その声はとても優しくて温かくて、我慢していた涙が溢れそうになります。

「……シオン様に女ができました」

 シオン様にとっては、そういう意味ではないかもしれませんが、まぁ間違ってはいないでしょう。

「はぁ!?」

「それは間違いでは!?」

 シオン様の番が私だとよく知っているお祖父様とお祖母様は、信じられない様子で私を見ています。私が首を横に振り答えようとした時でした。

「間違いじゃないわよ!!」

 私とは違う若い女性が、代わりにそう答えてくれました。お母様ですわ。それにしても、タイミング良すぎです。もしかして、ずっと見てましたの?

「あの雌猫、シオンにベタベタと触っていたわよ!! それをシオンは許していたわ。番であるセリアの前でもね!!」

 食堂の件見てましたね。ご丁寧にも、キチンと映像を残していました。

「事実のようだな……考えられん」

 お祖父様の声はとても低く、怒りに満ちていました。頭を抱えています。竜人の性質上ありえないことだからでしょう。

「お祖父様……その泥棒猫ですが、人族でないかもしれません」

「どういうことだ?」

「泥棒猫の言動もそうですが、異質な魔力を感じて……感情があらわになった一瞬でしたけど。お母様は感じませんでしたか?」

 私の隣に勝手に座っているお母様に、私は尋ねました。お祖父様もお祖母様もお母様を見ます。

「……あれ、リュウショウ族の生き残りよ」

「リュウショウ族?」

 初めて聞く種族でした。

 私以外の全員が盛大な溜め息を吐いています。皆、よく知っているようでした。やはり、ここに相談しにきたのは正解だったようです。

 泥棒猫、シオン様は返してもらうわよ。

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