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貴方がそれを望むのなら
第三話 売られた喧嘩は買う主義です
しおりを挟む幼少期から魔物討伐をしていたので、浅い睡眠でも平気なように訓練はしていますが、ここ最近は特に浅くて、ほとんど寝ていない状態に近いですね。さすがに身体にきますわ……
この手の疲れは、どんなに治癒魔法をかけても治せません。休憩、もしくは休暇をとって寝れば、すぐに治るでしょうが……この不安が解消されない限り無理でしょうね。
最悪なことに、その不安はよりいっそう濃いものになってますね。
「……ずいぶん、その女性と仲がよろしいようですね、シオン様」
この時発した声は、今まで出したことのないほど低くて、とてもとても冷たい声でした。実際、魔力が漏れて、床を凍らせてしまいましたわ。
騒がしかった食堂が、一瞬で無音になりました。
「お、おはよう、セリア」
見たことがないシオン様の慌てように、私の眉間の皺は深くなっていきます。
あの女は私のシオン様にア~ンをしようとしたままの体制で固まってますわ。腕とはいえ、身体の一部がシオン様に触れたままです。
その腕、使い物にならないようにしてあげましょうか。そうすれば、砦にくる必要はなくなりますね。私の不安も解消されますわ。幸いにも、ハンターの養成は問題なく進んでますし、別に構いませんよね。
……と考えたところで、私にはできないのだけど。さすがにやったら犯罪ですから。それに、貴族社会では珍しくはありませんからね、本妻の他に女を囲うのは。とはいえ、私は王族。そのようなこと許されるものではありませんわ。
そもそも、竜人族であるシオン様が、番の他に女を作るなんて考えられません。私に対しての執着と溺愛はどこにいったのです!!
シオン様を女から引き離して、そう詰め寄ることができれば、私はこんなに苦しむことはなかったのに……
素直になれないのは私の性格か、王族としての矜持か、シオン様を失うかもしれない怖さか……全部ね。
「おはようございます、シオン様。昨夜は忙しくて砦に泊まると聞きましたから、朝食だけでもご一緒しようと伺いましたが……お邪魔でしたね」
そう言いながら、私はシオン様の向かいの席に座りました。
「……食べるんだ」
そんな呟きが聞こえてきましたわ。まぁ、普通の貴族令嬢なら、踵を返してその場をあとにしたでしょうね。でも、私は違う。
売られた喧嘩は買う主義なの。
「せっかく用意してくれた食事を無駄にするのは、勿体ないし、作ってくれた方に失礼でしょう」
「そういう意味じゃなくて……」
あの女が言いたいことはわかりますわ。だから、私は正々堂々と権利を口にします。
「おかしなことを言いますね。なぜ私が、別の席にわざわざ移動しなければならないのでしょうか? シオン様は私の伴侶ですよ。それも、正式な」
にっこりと微笑みながら言いましたわ。目は笑ってはいないと思いますが。ええ、笑ってはいませんわ。
モゴモゴと落ち着きがなくなってきた女が、持っていたホークをテーブルに叩き付けると、勢いよく立ち上がり怒鳴りました。
「そんなこと、私たちは認めない!! 人間風情が出しゃばるな!!」
「リーナ!!」
駆け出し、逃げ出した女の名前を呼び腰を浮かすシオン様に、私はさらに冷たい声で言い放ちました。
「追いかけるのですか? 妻を放って他の女を」
「そういうんじゃない!! 俺が愛しているのは、セリアだけだ!!」
必死で否定してくるシオン様に、私は冷ややかな声で尋ねます。
「では、リーナさんとはどういう関係ですか?」
言葉に詰まるシオン様に、私は溜め息を吐くとトレイを持ち立ち上がりました。
今は言えないのか……この場だから言えないのか。なんにせよ、シオン様は私になにか隠してますね。愛していると言葉が聞けたので、この場はおとなしく引き下がりましょうか。ただ、釘は刺しておきますよ。満面な笑みで。
「シオン様、離婚及び仮面夫婦の原因の第一位、隠し事と浮気だそうです。もちろん、知ってますよね」
絶望的な表情で立ち尽くすシオン様を置いて、私は一人食堂を出ました。
リーナっていう女、意図的にあおりはしましたが、こうも簡単に感情的になってさらけ出すとは。我慢がきかずに、考えるより行動に移してしまうタイプですね。
あの様子だと、男女の関係はないようで安心しましたわ。少なくとも、身体を重ねたりはしていませんわ。シオン様の身体を覆う魔力に、他者の魔力が混じってませんから。でも……気になる単語を口にしていましたね。
――人間風情。私たち。
まるで、自分が人族ではない言い方ですわ。
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