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なんとしてでも、結婚してみせます

第七話 麻袋と潰れた蛙の声

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「失礼いたします」と、満面な笑みを浮かべ一礼して入室するスミス。完璧な立ち居振る舞いですわ。

 よほど嬉しいことがあったのか、機嫌がよろしいようで笑顔が途切れません。あのスミスが笑顔を見せるなんて、とても珍しいことですわ。

 だけど反対に、私たちは出し掛けた言葉を飲み込みます。あの騒がしいお母様でさえ、口を閉ざしていますわ。反射的に逃げようとするお母様の服を、咄嗟に掴んだ私は偉いでしょ。一人逃げようなんて、許しませんわ。

 皆無言のまま、室内にはただならぬ緊張感がーー。さしずめ、S級の魔物と対峙しているようですね。

 沈黙の中、大きな荷物を肩に担いだまま、スミスは私の元へと歩いて来ます。

 おそらく、いえ……まず間違いなく、肩に担がれた荷物の正体はお父様でしょう。断言できますわ。麻袋に入っていて、中身は確認できませんが。お母様愛が激し過ぎる残念なお父様ですからね、お母様が元王城に来た時点で、スミスは部下と共に狩ったのでしょう。

 さすが、最強暗部集団。

 怒らすと一番怖いのは、スミスたちですわね。

 スミスはやや乱暴に担いでいた荷物を床に下ろします。潰れた蛙の声がしました。

 誰も、その声について訊きはしません……

「セリア様、所望していたモノをお持ちしました」

 笑みを一段と深め、スミスは言います。

「……あ、ありがとう。とても、助かりますわ」

 無理に笑顔をつくろうとしても駄目ですね。口角がヒクヒクとするだけですもの。到底、笑顔と呼べるものではありませんわ。

 だって、そうなるでしょ。

 中身はコンフォート皇国皇帝陛下。大陸でその名を知らない者はいない、最強で最凶の統治者ですよ。

 それが、麻袋の中に入れられ転がされています。潰れた蛙の声を発しながら。これ……見る人が見たら、完全に私反逆罪に問われるわね。うん、処刑ものだわ。

「いえ、主君の望みを叶えるのが、我々の仕事であり生き甲斐ですから」

 楽しそうに嬉しそうに答える、スミス。

 主君の望みね……その望みを叶えるために、皇帝陛下を麻袋に入れるのも躊躇しないのですね。呆れるほど、優先順位がはっきりとしてますわ。だけど、捕まえるよう命じたのは私……仕方ないわね、腹を括りましょう。まぁ、この場にいる私たちしか知りませんから。

「……ならば、常に良き主でいるようにしないといけませんね」

 今度は不格好ではない笑みを浮べます。

「はい」
 
「そうだわ、スミス。ついでに、これを神殿まで運ぶのを手伝ってくれないかしら」

「畏まりました」

「では、シオン様、行きますよ」

 少し引いているシオン様に声を掛けます。それ、地味に傷付きますわ。

 改めて、麻袋を担ぐスミス。

 蛙の声。

 転移魔法が発動する直前、スミスはお母様に深々と頭を下げ言いました。皮肉たっぷりに。

「セイラ様、ご協力ありがとうございました」と。

 もうちょっと早く、スミスがお母様に皮肉たっぷりの礼を言ってたら、そのポカンとした顔を眺められたのに。とても残念ですわ。



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