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なんとしてでも、結婚してみせます
第五話 しっかりと反省してください
しおりを挟むカリカリとペンの音が響く執務室。
領主の仕事と学生、たまに舞い込む皇女としての外交、毎日が目が回るほど忙しいですわ。それも、自分が招いた結果なので仕方ないんですけどね。
「今日は、これで最後ですよ」
お目付け役であるスミスの言葉に、私はフーと息を吐きながら腕を回します。コキコキと骨が鳴る音がしました。
「……やっと終わる……終わったら、熱いお風呂に入りたいですわ」
体を思いっきり伸ばしたいです。腕を伸ばす私を見て、スミスがありがたい提案をしてくれました。
「明日に疲れを残すわけにはいきませんので、マッサージをするよう、侍女に言っておきます」
「なら、マッサージは私がしてあげるわ」
素直に「ありがとう」と言おうといた私に被せる声が。同時に、背中から少しヒンヤリとした風が室内に入ってきました。書類が飛ばないように押さえ付けます。
振り返らなくてもわかりますわ。こんな登場をする方は一人しかいませんもの。
書類をスミスに渡してから振り返ると、窓枠に腰を掛ける黒髮に黒目の女性。
やっぱり……この光景、前にも見たわね。
「いえ、結構ですわ」
深く考える前に、速攻で断りました。
だって、そうでしょ。どのような顔して、私の前に現れたのです。お母様は、今私の敵ですわ。
「冷たい……我が子が冷た過ぎるわ……」
泣き真似しても騙されませんからね。
そもそも、これくらいで、お母様が泣くわけないでしょ。あぁでも、このまま泣き真似されたら、面倒くさいことになりますね。お父様の登場は、精神をゴリゴリと削られますから。
「今日、泊まるつもりですか? なら、侍女に部屋を案内させますね。では、私はこれで」
さっさと執務室を出ようとする私に、焦ったのはお母様。
「ちょっと待って!! せっかく、出て来てあげたのよ!! 私を捕まえたら、レイを誘き寄せれるでしょ」
お母様の言葉に、私は大きな溜め息を吐いてしまいましたわ。淑女なのに。
「……確かに、お母様を人質にとれば、お父様は釣れますよね。でも、それに何の意味があるのです?」
「婚姻できるじゃない!!」
「お情けで? それも、親を人質にとって? お母様、私を馬鹿にしているのですか? それとも、舐めてます? そんなことをされて、私が嬉しいとお考えですか? そもそも、なぜ、私たちの婚姻を邪魔したのです?」
畳み掛けるように質問する私に、珍しくお母様がタジタジした様子で言い淀んでます。
「……だって、十六で婚姻なんて早過ぎるじゃない。それに、あれって、完全な吊り橋効果じゃない……」
お母様の回答に、私はまたしても盛大な溜め息を吐いてしまいました。
「この世界で、十六歳で婚姻は、特に早いことではありませんよ。……吊り橋効果については否定はしませんが、なんの覚悟も無しに、私とシオン様が婚姻を決めると?」
少し、言い方がキツかったかしら。でも、これくらいはいいですよね。完全に、私たちは振り回されてるのだから。
私に嫌われたと思ったのか、お母様が顔色を変えて焦ってます。
「だって!!」
手を伸ばすお母様を避けるように扉に向かいます。そして、出て行く前に伝えました。
「妙なところで、お母様は過保護ですから。今回のことも、私のことを考えてのことだと思っていますわ。だとしても、簡単に許すつもりはありません。こんなことをする前に、私たちと話をするべきだったのでは? 少なくとも、した後でも話し合いの場を設けることはできたでしょ。なのに、しなかったのはお母様たちですわ」
それだけ伝えると、私は執務室を出ました。
しっかりと反省してください、お母様。私たちには言葉があるのですから。そうそう、シオン様にもお母様が泊まりに来たことを伝えないと。今夜は、抱っこの時間が長くとれそうですわね。
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