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なんとしてでも、結婚してみせます

第四話 貴方が教えてくれました

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 ケルヴァンが固まってますね。逃げようにも、背後にはスミスが。目を合わせていないのに、蛇に睨まれた蛙のようです。

「……もしかして、スミス、怒ってますか?」

 怒っているとわかっていながら、訊いてしまう私。すると、スミスはにっこりと微笑みながら答えます。

「私に怒られるようなことをしましたか? セリア様」

 そう反対に訊かれると答えに困りますね。どう答えたらよろしいのでしょうか。果たして、正解はあるのでしょうか。

「……ここは素直に、スミスさんを頼ったらどうだ?」

 返事に窮している私に、ケルヴァンが助け船を出してくれました。

 やっぱり、それしかありませんか……

 スミス本人が乗り込んで来た以上、それしかないと、心の片隅で思ったのですよ。でもシオン様が……私との共同作業を嬉しがっているのに……私も嬉しくて楽しいですし。それに、ちゃんと仕事はしているつもりです。

「それは……」

 言い淀んでしまいます。

 そんな私の姿を見て、さりげに、スミスがケルヴァンに圧を掛けています。自分の口からではなく、ケルヴァンに言わしたいようですね。

 とばっちりを受けたケルヴァンは、小さく溜め息を吐くと口を開きます。

「セリア様がシオン隊長と過ごす時間は、他の王族や高位貴族の中でもかなり少ないと思う。だから今回のことは、セリア様やシオン隊長にとって格好の機会なんだよな。その気持ちはわかる。でもな、それにも限度があるんじゃないか? かなり、仲間に負担を掛けてないか? 原因になった俺が言うのもなんだけど」

 目から鱗ですわ。感動ものですね。まさか、あのケルヴァンから諭されることになろうとは……前回の件で、ケルヴァンは私が思っていたよりも、何歩も歩を進めたのですね。私も負けられませんわ。

 私は少し考えてから、隣に座るシオン様に視線を向けます。答えは決まっていました。

「シオン様……」

 寂しそうな仕方なさそうな笑みを浮べ、私の頭に手を乗せ撫でしてから、私が声を発する前にシオン様が答えます。

「わかった。仕方ない。スミスが出張って来たってことは、かなり負担が掛かってるんだろう。すまなかった。スミス、心から詫びる」

 スミスに視線を移してそう詫びると、シオン様は軽く頭を下げました。

 私は頭を下げるシオン様を見て微笑が漏れました。

 シオン様は全く変わらない。昔も今も。

 時間が流れ立場が変化し、立ち位置も家族から最愛の婚約者へと変わったのに、それに驕ることなく、自らを律し、性根は潔い方のまま。葛藤がなかったわけではありませんのに。

 ……だから、私はシオン様に惹かれたのですね。番とか関係なく、私はこの人を選んだのです。

 私の隣に立つ男性に。

「……スミス。貴方には、今まで私は我儘ばかり言ってきました。始めは小さな事柄で、それが時間が経つにつれ、段々大きくなっているのに気付きながらも、スミスなら大丈夫だって考えていました。それは違うのに……スミスを過小評価しているのではありません。そこは間違わないでください。携わる案件と、それに伴う、人材補強、育成のフォロー。全てが、貴方に、いえ、仲間であり側近である貴方たちの肩に伸し掛かっていたのですね……」

 シオン様にだけ謝らせるわけにはいきませんわ。私は深々と頭を下げました。テーブルに額が付きそうなほどに。

 これは私が領主としていたらなかったことが原因。度合いを推し量れなかった、私の落ち度です。悪かったなら、素直に謝罪する。そこに身分は関係ありません。それを教えてくれたのは、私の隣に座るシオン様ですわ。

「スミス、仕事が大変なのは理解してます。それでも、私の我儘を叶えるために力を貸してはくれませんか? お願いします」

「始めから、そう頼めばよかったのですよ、セリア様。……畏まりました、我が主のため最高の働きをいたしましょう」

 さっきまでの冷気が嘘のように和らぎます。私は皆のおかげで、選択を間違わないですみました。

「スミス、待ちなさい。一緒に帰りましょう。シオン様、よろしいでしょうか?」

「ああ」

 シオン様の笑顔が私を後押ししてくれます。

「ケルヴァン、シオン様、貴方たちのおかげで、自分の過ちに気付けましたわ。ありがとう」

 感謝の気持ちも、ちゃんと伝えなくてはいけませんよね。もちろん、それも貴方が教えてくれたことです。


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