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なんとしてでも、結婚してみせます

第二話 しばらく、復活できませんわ

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 もちろん、私とシオン様は乗り込みましたよ皇宮に。だけど、予想していたのか逃げ出したようで、執務室にお父様の姿はありませんでした。

「いませんわね!! 全く、どこに行ったのでしょ!! 必ず捕まえてみせますわ!!」

 憤る私に、シオン様はどこか嬉しそうな様子で答えます。

「皇宮内隠れているかもな」

「……シオン様、私には機嫌がいいように見えるのですが」

 やや、声のトーンが下がってしまいます。

 当然ですよね。お父様を捕まえなければ婚姻届が出せないのに!! わかっているのですか!?

「いや……セリアと二人で行動をともにするのが久し振りで、少し嬉しかったんだ。悪い、今はあいつを探すのが先なのにな」

 罰が悪そうに後頭部を掻きながら謝るシオン様のお姿は、もう、悶てしまうほど可愛くて、可愛くて、平静を保つのが困難になるほどの威力がありますわ。今まで培ってきた皇女としての教育を、全て無にしてしまう程に。

 簡単に言えば、ニヤケ顔を表に出してしまいそうなのです。こんな顔を、シオン様にお見せできませんわ。なので、私はシオン様から背を向けて回避します。すると、

「悪かった。機嫌を直してくれ、セリア」

 シオン様が私の背後に立ち、私を抱き締めます。直接、耳に吹き込まれる、シオン様の男らしい美声と吐息。そして、シオン様の高めの体温と硬い胸板。

 失敗しましたわ!!

 自ら窮地に追い込んで、何をしてますの!? セリア・コンフォート。

 黙り込んだ私に、さらにシオン様は追い打ちを掛けてきました。

「頼む……セリア」

 困った声でそう囁くと、私を抱き締める腕に力を入れます。

「…………狡いですわ、シオン様は。そんな風に言われたら、私は何も言えませんわ」

 私の胸の前で交差するシオンの腕に、手を添えて、私は小さな声でそう答えます。

 ああ……今日も完敗ですわ。だって、顔に熱が集まるもの。絶対、耳や項も赤くなってますわ。

「愛してる。セリア、私の番……」

 シオン様の声が耳元ではなく、背後から聞こえます。

「キャ!!」

 私は思わず、悲鳴を上げてしまいました。体も強張ります。

 だって、シオン様の唇が、唇が、私の項にーー。セリア・コンフォート、大ピンチです。シオン様の体温が上がっていて、このままだと流されてしまいそうです。どうしても、振り払えませんもの。流されてもいいのですが……さすがに、婚姻前はーー。

「そこまでだ!? コンフォ伯爵。何をしてるんだ!? 皇帝陛下の執務室で。そもそも、嫁入り前の婚約者に痕を付けるのは、さすがに行き過ぎだろ」

 救世主は顔を歪め咎めます。その背後には、近衛騎士が。リム兄様が近衛騎士に視線を向けると、騎士たちは扉を閉め下がります。

 リム兄様の登場で、シオン様は渋々私から離れました。助かりましたわ、リム兄様。

「大丈夫か? セリア。全く……なぜ、セリアの卒業まで待てないんだ? コンフォ伯爵。後、二年もないだろ? まぁ、あんな体験をした後で盛り上がった気持ちも理解はできるが……」

 溜息混じりに、リム兄様は言います。

「……リム兄様も反対なのですか?」

 私は気持ちを落ち着かせ振り返ると尋ねます。

「急ぐ必要がどこにあるんだ? セリアとコンフォ伯爵の婚姻を妨げる障害は、どこにもないだろ?」

「……確かに、リム兄様の意見が正しいのでしょう。普通に考えればそうです。しかし、私はどうしても、シオン様と婚姻したいのです、今!!」

「どうして?」

「シオン様を縛り付けたいからですわ。そして、シオン様にも、私を縛り付けて欲しいのです」

 私の告白に、リム兄様は呆気に取られた後、苦虫を潰した表情をしました。

「ほんと……セリアは父上に瓜二つだな。そんなところまで、似なくてよかったのに……父上なら、三十分ほど前に飛び出して行ったぞ」

「行き先は!?」

「母上のところだろ? 一時間前に母上が父上の元に訪れたからな」

 やっぱり、お母様がお父様にチクッたのですね。一時間前なら、私がシオン様に抱っこされたぐらいの時間。

 私は崩れるように、床に両膝を付いて項垂れます。

「セリア、どうした!?」

 シオン様が両肩を支えてくれました。

「しくじりましたわ。あの時、直接、転移魔法で神殿に向かってたら、婚姻届が貰えたのに……」

 なんたる失敗。しばらく、復活できませんわ。



 そしてこの日から、皇国を股にかけての鬼ごっこが始まったのです。


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