婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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エルヴァン王国の未来

第十五話 狂王子

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 扉を開けた先は何もない部屋で、異様に目立つのは中央に描かれた魔法陣と、魔法陣の中央に浮かぶ頭ニ個分ぐらいの大きさの魔水晶。

 不思議とその空間は、魔力持ちでも室内が見渡せます。といって、禍々しい魔力が消え去ったわけではありません。

 しいて言えば、ある一点に凝縮されたと言ったほうが正しいでしょう。

 エルヴァン王国が国宝だと信じる【竜石】が水晶の中から禍々しい魔力を放っていました。本当は【腐石】ですけどね。

 最高級の純度が高い魔水晶の角に幾つものヒビですか……今にも、割れてしまいそうな勢いですね。後一人か二人でバラバラになりそうですわ。

「おいおい、失礼じゃないか? こちらは話し掛けているのに、無視するなんて」

 醜く、歪んだ笑顔で話し掛けてくる狂王子。

 容姿は爽やかな王子様風で、立っているだけで社交界では主役になれただろう容姿をしてますわ。でも、その表情が全てを完全に打ち消してますわ。

「俺たちはお前と話す必要がないからな」

 シオン様がバッサリと切り捨てます。

「手厳しい言葉だな。落ちぶれた国には興味がないってわけか」

 何がおかしいのか、狂王子はさらに声を上げて嗤い出す。

 私は不快過ぎて、眉間に皺を寄せ睨み付けます。私の隣で歯軋りが聞こえましたわ。お母様です。完全に怒りが頂点に達しているようですわ。

「落ちぶれた? 何言ってるんだ!? 崩壊の間違いじゃないか!! 【竜石】に取り憑かれやがって、命をなんだと思ってるんだ!!」

 ケルヴァン殿下が前に出て来て、狂王子を怒鳴り付けます。

 狂王子は一瞬不快な表情を見せたが、すぐに醜く歪んだ表情に戻った。

「そういうわけか……どうして、ここまで辿り着けたのか疑問だったが、ケルヴァン、お前がコイツらをここまで連れて来たのか? 俺はてっきり、ライヴァンがここに来ると考えてたんだけどな。まぁでも、考えてみればおかしくないか。アイツ、大きな図体をしていて、肝はとても小さいからな。何度でも私を殺す機会があったのに、最後の最後まで、私を殺せなかったからな」

 その時のことを思い出しているのか、おかしそうに嗤い出す。

「それは、ライ兄上の優しさだ!!」

 ケルヴァン殿下の返答に、狂王子は嗤いを止め、ジロリと彼を睨み付けます。

「優しさ? 只の腰抜けだろ? だが、お前は違うよな? ここに居るってことは、そういう意味だろ?」

 挑発的な態度で、狂王子はケルヴァン殿下に問い掛けます。

「ああ。俺は心の底では、まだお前のことをどこか信じていた。でもーーあれを見たら」

 ケルヴァン殿下は怒りで下唇を噛み締めます。キレて血が出るくらいに。

 彼がここまで怒りを露わにするのは当然ですわ。ここまで来る間に、犠牲になった者たちの亡骸を見て来ましたからね。

「ケルヴァン殿下、怒りで我を忘れないように」

 私は小さな声でケルヴァン殿下を諭します。

「わかってる」

 厳しい声でケルヴァン殿下はつげると、ゆっくりと鞘から剣を抜きました。必死で耐えているのでしょう。痛みで自分を律してるのですね。

 私は後ろを振り返らずに、背後で控えている侍女たちに命じます。

「貴方たち四人はケルヴァン殿下のサポートを。全力を出すことを許可します」

 竜石の力を一部引き出している狂王子の相手は、魔力が微量しかないケルヴァン殿下一人では難しいですからね。

「畏まりました」

 侍女たちの空気が瞬時に変わります。今まで、全力を出すことを許可した覚えがありませんから、嬉しいのでしょう。

「なら、俺たち三人があの竜石の再封印にあたるとするか」

「ですわね。……お母様?」

 お母様の様子が少し変です。【竜石の間】に入った時から。

「大丈夫よ。セリアは魔法陣に魔力を流して。私は魔水晶を修復するわ。同時進行で行うわよ。シオンはセリアを護って」

「承知した」

 今度はシオン様に私の命を預けますわ。魔力を流している間、私は無防備になりますからね。でもそれは、お母様も一緒では。

「お母様は?」

「私は大丈夫よ。貴方たちは何をしなければならないか、口にしなくてもわかるわよね」

 お母様の問い掛けに、侍女たちとケルヴァン殿下は頷きます。

「なら、始めるわよ!!」

 その声と同時に、侍女たちとケルヴァン殿下が前に飛び出しました。



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