270 / 342
エルヴァン王国の未来
第十三話 狡猾というか、的確ですわね
しおりを挟むケルヴァン殿下は警戒しながら少しづつ扉を開けます。
わずかに開いた隙間から、ヒンヤリとした冷気が流れて来ました。
濃い闇の魔力と、微かにする血の臭い。
そして腐敗臭。
何度も討伐で修羅場を経験していますから、この血の臭いが人のものであることは、すぐにわかりました。
「ケルヴァン」
シオン様に促され、止まっていたケルヴァン殿下の手に力が入ります。
ギィーーという、古い金属音とともにゆっくりと扉が開いていきます。
開いた扉の先は闇でした。
先が全く見えない、漆黒の世界。
「薄暗いですが、これくらいなら進めますね」
ケルヴァン殿下の声に、従者を除く全員がケルヴァン殿下を凝視します。
「ケルヴァン殿下には、どう見えているのですか!?」
思わず、私は尋ねました。
「えっ!? 普通の地下通路だけど、石畳の」
やはり、この闇が見えていないーー
「セリア、この坊や、魔力を保有してないわね。してても、微弱でしょ」
お母様はケルヴァン殿下から私に視線を移し尋ねます。
「はい。その通りですわ」
「やっぱりね。シオン、この坊やを連れて来て正解だわ」
にっこりと微笑みながら、お母様はシオン様を見ます。
「どういう意味だ?」
シオン様の問いに、お母様はニヤリと笑うと教えてくれました。
「ここから先は、この坊やの道案内がないと進めないってことよ。突っ込んで言えば、竜石の間に続く道は、坊やしか知り得ないってことね」
「ケルヴァン殿下しか……?」
思わず、再度ケルヴァン殿下に視線を向けます。私以外も視線を向けてますから、彼は訳がわからない顔で戸惑ってますね。
「そう。多少でも、魔力がある人間なら、この先に続く通路は見にくくなってるはずよ。目眩まし、幻術といった類ではないわね。しいて言えば、自然にできたトラップかしら。狂王子はそれを利用して、さらにトラップを仕掛けてるみたいね」
漆黒の闇の先に視線を向け、お母様は言います。
お母様が何を言いたいのか、だいたいわかってきましたわ。
「なるほど……つまり、こういうことか。竜石は穢され漆黒の魔力を放っている。それは、魔力を持つ人間にしか見えない。保有している魔力によって、見え方は違うわけか」
「なら、説明がつきますね。ケルヴァン殿下が普通の地下通路に見えたのも。確かに、自然にできたトラップですわ。それに、ここまで侵入した者が魔力を保有してないとは、普通考えませんものね。狂王子が新たにトラップを仕掛けるのも頷けますわね」
シオン様の台詞に続けるように、私は答えます。
「どういうことなんだ? セリア様」
ケルヴァン殿下は今ひとつわかっていませんね。従者はそれとなく察している様子。他の皆はちゃんと理解してますね。
仕方ありませんわね。ここで、また講義をして差し上げましょう。
「ケルヴァン殿下、魔力を保有する者は、感覚で動くことがただあります。ケルヴァン殿下も考えるより早く体が反応する時があるでしょう。それに似てますね。視界が遮れられた時は特に、それに頼ってしまう。まさに、その盲点を突いたやり方ですわね。狡賢いというか、狡猾というか……でも、的確ですわ。積んできた経験が仇となるのですもの。さすがのベテラン勢もパニックになるでしょうね」
「じゃあ、この血の臭いは……?」
訊くまでもないでしょ。
「彼らのものでしょうね」
黙り込む、ケルヴァン殿下。そんな彼の背中を力強く叩いたのはお母様。
「ほらっ、ここで立ち止まってても仕方ないでしょ。さっさと進むわよ。坊やを先頭に」
そう言うと、お母様はケルヴァン殿下の背中を押しました。
ケルヴァン殿下は泣きそうな表情になりましたが、私たちが甘やかすわけないでしょ。ほら、先を進みますよ。
5
お気に入りに追加
7,462
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです
珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。
※全3話。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。
だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。
全2話。
【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」
まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。