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エルヴァン王国の未来

第十三話 狡猾というか、的確ですわね

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 ケルヴァン殿下は警戒しながら少しづつ扉を開けます。

 わずかに開いた隙間から、ヒンヤリとした冷気が流れて来ました。

 濃い闇の魔力と、微かにする血の臭い。

 そして腐敗臭。

 何度も討伐で修羅場を経験していますから、この血の臭いが人のものであることは、すぐにわかりました。

「ケルヴァン」

 シオン様に促され、止まっていたケルヴァン殿下の手に力が入ります。

 ギィーーという、古い金属音とともにゆっくりと扉が開いていきます。

 開いた扉の先は闇でした。

 先が全く見えない、漆黒の世界。

「薄暗いですが、これくらいなら進めますね」

 ケルヴァン殿下の声に、従者を除く全員がケルヴァン殿下を凝視します。

「ケルヴァン殿下には、どう見えているのですか!?」

 思わず、私は尋ねました。

「えっ!? 普通の地下通路だけど、石畳の」

 やはり、この闇が見えていないーー

「セリア、この坊や、魔力を保有してないわね。してても、微弱でしょ」

 お母様はケルヴァン殿下から私に視線を移し尋ねます。

「はい。その通りですわ」

「やっぱりね。シオン、この坊やを連れて来て正解だわ」

 にっこりと微笑みながら、お母様はシオン様を見ます。

「どういう意味だ?」

 シオン様の問いに、お母様はニヤリと笑うと教えてくれました。

「ここから先は、この坊やの道案内がないと進めないってことよ。突っ込んで言えば、竜石の間に続く道は、坊やしか知り得ないってことね」

「ケルヴァン殿下しか……?」

 思わず、再度ケルヴァン殿下に視線を向けます。私以外も視線を向けてますから、彼は訳がわからない顔で戸惑ってますね。

「そう。多少でも、魔力がある人間なら、この先に続く通路は見にくくなってるはずよ。目眩まし、幻術といった類ではないわね。しいて言えば、自然にできたトラップかしら。狂王子はそれを利用して、さらにトラップを仕掛けてるみたいね」

 漆黒の闇の先に視線を向け、お母様は言います。

 お母様が何を言いたいのか、だいたいわかってきましたわ。

「なるほど……つまり、こういうことか。竜石は穢され漆黒の魔力を放っている。それは、魔力を持つ人間にしか見えない。保有している魔力によって、見え方は違うわけか」

「なら、説明がつきますね。ケルヴァン殿下が普通の地下通路に見えたのも。確かに、自然にできたトラップですわ。それに、ここまで侵入した者が魔力を保有してないとは、普通考えませんものね。狂王子が新たにトラップを仕掛けるのも頷けますわね」

 シオン様の台詞に続けるように、私は答えます。

「どういうことなんだ? セリア様」

 ケルヴァン殿下は今ひとつわかっていませんね。従者はそれとなく察している様子。他の皆はちゃんと理解してますね。

 仕方ありませんわね。ここで、また講義をして差し上げましょう。

「ケルヴァン殿下、魔力を保有する者は、感覚で動くことがただあります。ケルヴァン殿下も考えるより早く体が反応する時があるでしょう。それに似てますね。視界が遮れられた時は特に、それに頼ってしまう。まさに、その盲点を突いたやり方ですわね。狡賢いというか、狡猾というか……でも、的確ですわ。積んできた経験が仇となるのですもの。さすがのベテラン勢もパニックになるでしょうね」

「じゃあ、この血の臭いは……?」

 訊くまでもないでしょ。

「彼らのものでしょうね」

 黙り込む、ケルヴァン殿下。そんな彼の背中を力強く叩いたのはお母様。

「ほらっ、ここで立ち止まってても仕方ないでしょ。さっさと進むわよ。坊やを先頭に」

 そう言うと、お母様はケルヴァン殿下の背中を押しました。

 ケルヴァン殿下は泣きそうな表情になりましたが、私たちが甘やかすわけないでしょ。ほら、先を進みますよ。
 

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