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エルヴァン王国の未来

第十一話 一つの円

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 重厚な扉を案内人が開けると、エントランスの奥で手の者が待っていました。

 私たちは周囲を確認しながら、ゆっくりと足を踏み入れます。

 シオン様の命令通りですわね。

 騎士とハンターたちは両手両足を縛られて、床に転がっていました。

 呻き声を上げているのは騎士ばかり。どうやら、ハンターたちは眠り粉で眠らされているようですわね。プロの暗殺者が使う粉薬、即効性が凄い。これはかなり使えますね。魔物に有効なら、討伐にかなり有利に働きますわ。そろそろ、魔の森が活発になり始める頃ですから、試すなら早めにしないといけませんね。

「一度、試してみるか……」

 そんなことを考えていると、隣から、シオン様がポツリと呟きました。

 どうやら、シオン様も私と同じことを考えていたようです。それだけで嬉しいですわ。通じ合ってる気がして。嬉しくて表情筋が緩んじゃいます。

「はい」

 返事はこの場に相応しくないほど明るいものになってしまいましたが、特に問題はないでしょう。

 価値観が一緒の夫婦は幸せになると、リーファが貸してくれた小説に書いてありました。まだ夫婦ではありませんが、いずれ、夫婦になるのです。幸せの要素が増えることは喜ばしいことですわ。

「帰ったら、試そうな」

 そう言いながら、シオン様はポンポンと私の頭を撫でてくれます。とても男らしくて、格好いい笑顔で。

「…………仲がいいのは良いことだけど、この状況下では抑えてくれない」

 お母様が後ろから、やや低い声で言ってきました。これはかなり、ご機嫌が悪くなってるサイン。

「そ、想像していたよりも、残っていたようですね」

 慌てて取り繕います。

「国を見捨てられなかった騎士たちって、ほんと哀れよね。感情を殺され操られて、人形になって、死ぬように命じられる。使い捨ての玩具のように。仕える国によって、これほどまでに違うなんて、哀れを通り越して悲しいわね」

 お母様の言葉の一句一句が、胸に突き刺さります。私だけではなく、この場にいる全員に突き刺さったでしょう。刺さり方はそれぞれ違いますが。

「……確かに、騎士は王族、皇族に、国に、その命を掛けてくれます。それが信念であり、誇りですから。でも……お母様、一つだけ違いますわ。私たち王族、皇族は民に命を掛けるのです。まるで、一つの円のように。一方通行にはなってはいけない。私はそう考えますわ。甘いのかもしれません。理想論かもしれません。それでも、私はその道を進んで行くと決めております」

 悲しい現実に触れる度に、その想いは強くなります。時には、重圧に押し潰されそうにもなります。そうなった時、私の隣には、必ず誰かが側にいて支えてくれました。

 今は主にシオン様ですが。

 シオン様は私の隣に立ち、私と一緒に目の前の光景を見、目を背けないでいてくれる。共に受け入れ、同じように苦しんでくれる。

 今もシオン様に視線を向ければ、微笑み返してくれます。

「……もしかして、イルヴァン第一王子が狂王子に変貌したのは、誰も隣にいなかったからかもしれませんね」

 ポツリと呟いた私の声は、その場に虚しく響きました。



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