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エルヴァン王国の未来
第十話 王宮到着
しおりを挟む「コンフォ様、セリア様、狂王子は王宮の地下、竜石の間にいます」
ゲス男から離れたタイミングを見定めて、私の手の者が物陰から声を掛けてきました。ゲス男たちからは見えない位置からです。
それにしても、放っていた者たちまで、狂王子と呼ばれるとは……浸透してますわね。
「えっ!? 竜石は王都の大広場にあるんじゃないのか!?」
いきなり、口を挟んで来たのはケルヴァン殿下。従者も不思議そうな顔をしています。頓珍漢過ぎますわ。頭が痛くなる台詞ですわね。
そんなわけないでしょ。
そう突っ込みそうになりましたが、ここは我慢し、手の者に問い掛けます。
「もちろん、一人ではありませんね?」
「竜石の間には狂王子一人で。騎士たちと操られたハンターたちは、身を潜めて、コンフォ様たちが到着するのを待っております」
「そう……」
「承知した」
想像していたので、私もシオン様も特に驚きはしません。
「それで、どういたしましょうか? 私どもで露払いを致しておきましょうか?」
手の者の問い掛けに、シオン様は私を見下ろします。私は頷きました。
シオン様のやりたい様になされば宜しいですわ。だって、この場において、シオン様の方が立場が上なのですから。申し上げたでしょ。私は皇女として、この場には来ていないと。
「露払いは任せた。だが、くれぐれも殺すなよ。特にハンターたちは傷を一切残すな。これは絶対命令だ」
当然ですわね。ハンター協会を代表してハンターたちを救出に来たのに、ハンターたちを殺しては本末転倒ですわ。それに、ハンターたちはあくまで被害者ですからね。
「畏まりました」
手の者はそう答えると、スーと姿を消しました。さすが、スミスの配下ですわね。色々と心得ています。
「……大丈夫なのか?」
ケルヴァン殿下がまた訊いてきました。
「愚問ですわね。大丈夫だから、任せたのです」
「そうなのか……」
見た目、痩せててヒョロッとしてますが、彼は強者ですわよ。暗殺者として。
その彼に、シオン様は殺さないよう命じた。
暗殺者にとって、殺さないということは、殺す以上に技術がいるのです。壊すよりも温存することが難しいように。
納得していないケルヴァン殿下を無視し、私たちは先を進みます。
大広場に出た時でした。
「これが、竜石じゃないのか?」
忘れてなかったようですね、ケルヴァン殿下。
エルヴァン王国のシンボルとして、王都の中央に掲げられ奉られていた竜石のオブジェ。
国民や下位貴族なら、それが本物だと信じるのは理解できますが、上位貴族、特に王族なら完全にアウトでしょう。
「こんな場所に、わざわざ本物を安置するはずないでしょう」
先に歩を進めながら答えます。少し考えればわかりますよね。
「盗まれないように、最強最高の魔法陣が張られていたから、てっきり、本物だと思ってた」
その台詞に、思わず溜め息が出ました。
「エルヴァン王国のシンボルですよ。盗まれるわけにはいきませんわ。それ相応の対応をしていて当然でしょう」
ざっと見た限り、その魔法陣も効力を失っているようですけどね。元々動力源が、竜石を信仰する祈りの力だったみたいですから、当然でしょう。
もはや、この国に竜石を信仰する者はいませんわ。
「そうか、そうだよな」
ケルヴァン殿下は疑問が晴れたのか、声が明るいですわ。反対に、私は不安になります。恰好なカモになりそうで。でも、そういう素直なところが嫌いになれないんですよね。
「さて、王宮まで来ましたね」
王宮の入口で私たちは足を止めました。
「行くぞ、ケルヴァン。心積もりはできているな」
シオン様の問い掛けに、ケルヴァン殿下はさっきまでとは違い、険しく厳しい表情をしながら、小さいがはっきりと答えました。
「はい」とーー。
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