上 下
265 / 341
エルヴァン王国の未来

第八話 特別講義ですわ

しおりを挟む


「監視……?」

 ケルヴァン殿下が訝しげな表情で尋ねてきました。

 彼は、こと魔法に関してはあまり得意ではありませんからね、ここは私が特別に教授してあげましょう。そう思った途端、シオン様の腕の力が入りましたが、それは受け流して進めます。

「おそらく、狂王子は王都全体にある種の結界を張っているのでしょう」

「結界を?」

「ええ、そうです。例えば、高い能力値がある者が寄れば引っ掛かるような類いのものを。探索魔法の応用版みたいなものですわね」

 私がそう答えると、さらに、訝しげな表情をするケルヴァン殿下。

「……エルヴィン王国では、イルヴァンはかなりの魔力持ちだったが、こんな大掛かりな魔法を展開するほどの魔力はなかったぞ」

 ごもっともなご意見ですね。そのような魔力を有していれば、私の耳にも入ってきますわ。

「確かに、狂王子自身の力ではありませんわ。魔力を増長させている媒体があるのです」

 ケルヴァン殿下でもわかるでしょう。媒体がなにか。

「竜石か……」

「ええ、竜石ですわ。封印が解かれていないとはいえ、魔力を増幅させるまでには、封印が解かれつつあるということですよ」

 竜石ではなく、腐石ですけどね。

 封印が解かれつつあるということは、淀みが生まれつつあるということですわ。そして、淀みを放っておくと魔物が生まれ、大地は腐れ、草一つ育たない地になるでしょう。狂王子の監視のおかげで、どこまで竜石の封印が解けているのか知ることができましたね。

 事実、空気に僅かですが腐敗臭がします。

 考えていた以上に事態は進んでますわ。猶予がありませんね。

「あ~そういうことか、納得した」

 私の説明に、ケルヴァン殿下は晴々な顔をします。これだけのことで。砦の皆に好かれるのがわかりますわ。教えたくなるもの。

「セリア」

 耳元でシオン様が囁きます。低い声で。

 途中で止めるわけにはいきませんので続けます。

「コホン。話を戻しますが、狂王子は王都全域に結界を張り、引っ掛かる者がいれば監視すると言いましたね。監視に気付けば、なお優秀、といったところですか。竜石の力を一部借りたとはいえ、その努力、なぜ別の場所で使わなかったのでしょうね。使えるのなら、未来も変わったでしょに」

 いまさら、言っても仕方ないことですね。散々、その話はしましたし。過去には戻れませんわ。

「だとしたら、セリア様たちは……?」

「狂王子から合格点もらえたでしょうね。褒美は、生贄でしょうか」

 謹んで辞退したいですわ。

「生贄にはさせない」

 また、耳元でシオン様が囁きます。

「私もさせませんわ」

 シオン様も気付いたのですから、当然、生贄対象でしょう。もちろん、お母様も。

「俺も、セリア様たちを生贄にはさせない!!」

 一歩身を乗り出して、ケルヴァン殿下はそう宣言しました。

 婚約者同士の会話に入り込んでくるケルヴァン殿下。らしいといえば、らしいですわね。侍女たちの冷たい目気付いてます? 従者は溜め息吐いてますよ。反対に、お母様は楽しそうですけどね。全く気付いてませんね。さすが、ケルヴァン殿下ですわ。
 
 友人として、ケルヴァン殿下のお気持ちはとても嬉しいのですが、この中で一番弱いのはケルヴァン殿下ですよね。ダントツに。だけど、ちゃんとお礼は言いますよ。

「ありがとうございます、ケルヴァン殿下」

「ーーほんわかしているのは、どうやら終わりのようだ」

 シオン様が私を下ろします。

 立ち塞がるのは、町で出会った騎士とは違い、立派な装いをした騎士たちでした。

 でも、その目に生気はありません。まるで人形のようですわ。動きもまるで同じ。

「……そう……墜ちるところまで、堕ちた男がやることはゲスいですね」

 私は低い声でボソリと呟きます。

 味方である騎士の精神に関与し、操り人形のように従属化しているのがわかったからですわ。

「人聞きの悪いことは仰らないでくださいますか、セリア皇女殿下」

 人形の騎士の背後から、やや年配の脂ぎった男が出てきた。できれば、生理的に関わりたくない部類の人だった。



しおりを挟む
感想 774

あなたにおすすめの小説

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。