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エルヴァン王国の未来

第八話 特別講義ですわ

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「監視……?」

 ケルヴァン殿下が訝しげな表情で尋ねてきました。

 彼は、こと魔法に関してはあまり得意ではありませんからね、ここは私が特別に教授してあげましょう。そう思った途端、シオン様の腕の力が入りましたが、それは受け流して進めます。

「おそらく、狂王子は王都全体にある種の結界を張っているのでしょう」

「結界を?」

「ええ、そうです。例えば、高い能力値がある者が寄れば引っ掛かるような類いのものを。探索魔法の応用版みたいなものですわね」

 私がそう答えると、さらに、訝しげな表情をするケルヴァン殿下。

「……エルヴィン王国では、イルヴァンはかなりの魔力持ちだったが、こんな大掛かりな魔法を展開するほどの魔力はなかったぞ」

 ごもっともなご意見ですね。そのような魔力を有していれば、私の耳にも入ってきますわ。

「確かに、狂王子自身の力ではありませんわ。魔力を増長させている媒体があるのです」

 ケルヴァン殿下でもわかるでしょう。媒体がなにか。

「竜石か……」

「ええ、竜石ですわ。封印が解かれていないとはいえ、魔力を増幅させるまでには、封印が解かれつつあるということですよ」

 竜石ではなく、腐石ですけどね。

 封印が解かれつつあるということは、淀みが生まれつつあるということですわ。そして、淀みを放っておくと魔物が生まれ、大地は腐れ、草一つ育たない地になるでしょう。狂王子の監視のおかげで、どこまで竜石の封印が解けているのか知ることができましたね。

 事実、空気に僅かですが腐敗臭がします。

 考えていた以上に事態は進んでますわ。猶予がありませんね。

「あ~そういうことか、納得した」

 私の説明に、ケルヴァン殿下は晴々な顔をします。これだけのことで。砦の皆に好かれるのがわかりますわ。教えたくなるもの。

「セリア」

 耳元でシオン様が囁きます。低い声で。

 途中で止めるわけにはいきませんので続けます。

「コホン。話を戻しますが、狂王子は王都全域に結界を張り、引っ掛かる者がいれば監視すると言いましたね。監視に気付けば、なお優秀、といったところですか。竜石の力を一部借りたとはいえ、その努力、なぜ別の場所で使わなかったのでしょうね。使えるのなら、未来も変わったでしょに」

 いまさら、言っても仕方ないことですね。散々、その話はしましたし。過去には戻れませんわ。

「だとしたら、セリア様たちは……?」

「狂王子から合格点もらえたでしょうね。褒美は、生贄でしょうか」

 謹んで辞退したいですわ。

「生贄にはさせない」

 また、耳元でシオン様が囁きます。

「私もさせませんわ」

 シオン様も気付いたのですから、当然、生贄対象でしょう。もちろん、お母様も。

「俺も、セリア様たちを生贄にはさせない!!」

 一歩身を乗り出して、ケルヴァン殿下はそう宣言しました。

 婚約者同士の会話に入り込んでくるケルヴァン殿下。らしいといえば、らしいですわね。侍女たちの冷たい目気付いてます? 従者は溜め息吐いてますよ。反対に、お母様は楽しそうですけどね。全く気付いてませんね。さすが、ケルヴァン殿下ですわ。
 
 友人として、ケルヴァン殿下のお気持ちはとても嬉しいのですが、この中で一番弱いのはケルヴァン殿下ですよね。ダントツに。だけど、ちゃんとお礼は言いますよ。

「ありがとうございます、ケルヴァン殿下」

「ーーほんわかしているのは、どうやら終わりのようだ」

 シオン様が私を下ろします。

 立ち塞がるのは、町で出会った騎士とは違い、立派な装いをした騎士たちでした。

 でも、その目に生気はありません。まるで人形のようですわ。動きもまるで同じ。

「……そう……墜ちるところまで、堕ちた男がやることはゲスいですね」

 私は低い声でボソリと呟きます。

 味方である騎士の精神に関与し、操り人形のように従属化しているのがわかったからですわ。

「人聞きの悪いことは仰らないでくださいますか、セリア皇女殿下」

 人形の騎士の背後から、やや年配の脂ぎった男が出てきた。できれば、生理的に関わりたくない部類の人だった。



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