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エルヴァン王国の未来
第四話 逃げるのは許さない
しおりを挟む「頼みたいのは、エルヴィン王国にハンターを正式に派遣し、魔物の討伐、そして竜石の回収だな」
キリリとした男らしい表情で、シオン様はケルヴァン殿下に向け確認します。
私を膝の上に乗せたままで。降りたくても、腰に手が回っているので降りることができません。
なので、本来なら、場の空気はピリピリと張り詰めたものになりそうなのだけど、というか、そうなるべきなのに、微妙な残念な空気が漂ってますわ。
「……そうです」
「なら、エルヴァン王国の罪を世界に明らかにすることになるが、構わないか?」
「構いません。寧ろ、それを望んでいます」
険しい表情をしたケルヴァン殿下が答えますが、しまりませんね。
「わかった。なら、こちらから、最速便でハンターギルド本部に手紙を出そう。……それで、本当に覚悟ができているんだろうな」
ケルヴァン殿下を見据えたまま尋ねます。
その手を、血に染める覚悟があるかーーと。
「……正直に言えば、怖いです。……人を、自分の兄を手に掛けなければならない。怖くて怖くて仕方がない。でも……そうしなければ、これから先も、関係のない民やハンターが死んでいく。怖くても、やらなくちゃいけないんです、俺がーー」
尊敬し憧れているシオン様の前だからこそ、ケルヴァン殿下は自分の胸の内を吐露できたのでしょう。
ケルヴァン殿下の怖さは理解できます。
皇女であり、領主を務める私は、立場上、人を手に掛ける事態に出合うかもしれません。すでに、近いことはしております。ですが、直接手を下したことはまだありません。その差は大きい。
事実、他の王族や皇族よりも可能性は多いですしね。今回のエルヴァン王国の件は、私自身考えさせられる件でもありましたの。本当に。そこまで考えていたら、
……シオン様?
回された腕に力が入ります。自然と、シオン様との密着度が増します。目の前に、ケルヴァン殿下たちがいるに、全くもう。私の体のほんの僅かな体の揺れから、私の心の機微に気付いたのでしょう。
シオン様を騙すことはできませんね。
それを喜ぶべきか悲しむべきか。難しい問題ですわね。苦笑するしかありませんわ。
「怖がるのは構わん。当然だからな。しかし、途中で逃げ出すことだけは許さない。もし逃げ出したら……わかっているな、ケルヴァン」
シオン様はやや威圧を放ちながら、ケルヴァン殿下に告げた。
ある程度シオン様に免疫があるとはいえ、近距離で威圧を放たれると、さすがのケルヴァン殿下も腰を抜かしそうになったはず。しかし、ケルヴァン殿下は耐えていました。
思っていた以上に、鍛えられたみたいですね。
それは同時に、ケルヴァン殿下は与えられた時間を、有効に使ったということを意味してます。
第二王子殿下とは違いますね。
彼は手を血に染めることに怖じ気付き、何もできないまま時間だけが過ぎた。それは即ち、時間をドブに捨てたことと同じ。
「……わ、わかっています。ライ兄様のような醜態は晒しません」
「だといいがな」
シオン様はそう告げると、用意していた魔鳩の背に手紙を括り付けます。
既に、用意していたようです。さすが、シオン様ですわ。
「この後はどうするのです?」
シオン様の頬を撫でてから訪ねます。
「決まっているだろ。エルヴィン王国に乗り込む」
ですよね。でもその前に、
「書類の決算お願いしますね」
机に視線を向けながらいいます。そういう私も、シオン様のことは言えませんけどね。
「出発は明日の早朝で。ケルヴァン殿下もよろしいですね」
ニコッと微笑む。否は言わせませんわ。
「わかった。俺にも準備があるから……」
そう告げると、ケルヴァン殿下は一礼し執務室から退出します。
「セリア」
シオン様に名前を呼ばれ、顔を向けた時には、室内に残っていた案内人と侍女二人は姿を消していました。
本当に優秀ですわ。
「……シオン様、時間はありませんよ」
近付く顔を拒むことなく、私は可愛げのないことを言ってしまいます。
「朝までに終わらせたらいいんだろ?」
「終われるのですか?」
互いの吐息が掛かる距離で会話をする、私とシオン様。
「セリア次第だな」
「私が協力したら、なおさら無理なのでは?」
「もう黙れ」
辛そうな表情で、シオン様は私に命じます。その顔が、私の真上に。ソファーに押し倒された私の上に、シオン様が覆い被さってきました。
☆☆☆
最後まで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
実は、こっそりと【第5回ほっこり・じんわり大賞】に参加しています。
後、4日ですね……
タイトルは【俺は妹が見ていた世界を見ることはできない】です。
異世界ものではなく、現代もの。このジャンルを書くのは初めてです。読んでもらえたら嬉しいです。
これからも頑張って書いていきますね。
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