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エルヴァン王国の未来
第三話 そう思ったのですもの、仕方ありませんわ
しおりを挟む「セリアと過ごせるなら、幾らでも時間を取ろう」
いつも以上にとても甘い声で、シオン様は囁きます。顔が近いので、はっきりと聞こえますわ。
「ありがとうございます、シオン様」
ニコッと微笑むと、シオン様は破顔し顔を近付けてきます。元々近かったので、すぐに引っ付きそうになりますが止めましたわ。
「駄目です」
ここは外ですわ。すぐ側には、ケルヴァン殿下も侍女たち、そして案内人さんがいます。破廉恥なことなどできませんわ。
とはいえ、抱き上げられてる時点でアウトな気がしますが……まぁここは、私とシオン様のテリトリー内、なんとでもなりますわ。醜聞は漏れませんわ。絶対に。
私が拒否したことで、漸くシオン様は、外野に視線を合わせます。私を抱っこしたままで。
「……まだ居たのか」
低い声ですわね。とても、ご機嫌斜めのご様子。
反対に、ケルヴァン殿下たちは完全に空気化してますわ。若干、ケルヴァン殿下の耳が赤くなっていますが。私も赤くなるでしょ。気持ちを切り替えて、
「居てもらわなくては話になりませんわ。シオン様、そろそろ下ろしてくださいませ」
「嫌だ」
「下ろしてください、婚約者様」
あえて婚約者様と言ったら、渋々ですが下ろしてくれましたわ。そんなに、嫌なんですね。内心、クスリと笑います。
「実は、シオン様にお願いしたいことがあるのです」
「わかっている、ここにコイツがいるってことは、そういうことだろう」
シオン様がケルヴァン殿下を一瞥。ケルヴァン殿下の体がビクッと震えます。
「話が早くて助かりますわ」
「詳しい話は、執務室でしようか」
それがいいですわね。
全員が執務室の方に足を向けた時でした。またしても視界が高くなります。いつもの子供抱っこですわ。
「セリアの定位置はここだ」
「……それは城内だけにしてくださいませ」
「ここも、セリアの城のようなものだろ」
悪戯っ子のように笑う、シオン様。魅力的過ぎて、見惚れてしまいましたわ。あ~ここが屋外でなく、ケルヴァン殿下たちがいなければ、そのお顔を堪能いたしましたのに。残念ですわ。
もちろん、シオン様の言葉の意図に気付かない私ではありませんわ。さっき、似たようなことを考えていましたから。
「否定はしませんが……そういうのは二人っきりの方が邪魔されませんよ」
やんわりと咎めます。その間も、シオン様は執務室に向かう足を止めません。
「今更な台詞だな。昔から、いつもこうだっただろ?」
「確かにそうですが、婚約者になってからとでは、意味合いが違います!!」
きちんと抗議しますわ。
「そうか~~」
笑う、シオン様。
「貴方のその笑顔を護りたい」
思うよりも先に、口からポロリと出た言葉。
「……その台詞は、男の俺の台詞だぞ」
呆れながらも、項が赤くなってますわ。嫌ではありませんのね。
「そう思ったのですもの。仕方ありませんわ。……愛してます、シオン様」
愛してますの部分は声を潜めて。人前ではしませんよ。礼儀ですからね。一気にシオン様の体温が高くなりましたわ。私の口元も緩みます。
「クソッ」
悔しそうでしね。
家族の前では、わりかし表情豊かなシオン様。子供の頃から、色々な表情を見てきました。それはそれで幸せでしたわ。でも……婚約者になってからは、家族とは違う表情を見ることができます。
「シオン様といて、退屈することは一生ないでしょうね」
毎回、違う表情を見せてくれるから。
「後で覚えていろよ」
「はい」
このようなやり取りを他者には聞かせたくなくて、小声で話していたのですが、その配慮は不要のようでした。
ふと、後ろを見たら、半階分距離をおいて付いて来てましたから。
☆☆☆
最後まで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
実はこっそりと、【第5回ほっこり・じんわり大賞】に参加しています。
異世界ものではなくて現代もの。初のライト文芸です。タイトルは【俺は妹が見ていた世界を見ることはできない】です。
読んでもらえると嬉しいです。
これからも、頑張って書いていきますね。
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