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エルヴァン王国の未来

第二話 色々な意味で最強の方なのですから、勝てないのは当然です

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「……砦?」

 見覚えがあり過ぎる場所に、ケルヴァン殿下は思考が追い付いていないのか、立ち尽くしています。口を閉じてください。間抜け顔ですよ。そこそこ、容姿が良いのだから。

「何、ボケッとしてるのです? さっさと行きますよ」

「どうして、砦に?」

 先を歩く私を追い掛けるように付いてくる、ケルヴァン殿下。

「シオン様に会うためですわ」

「なんで、隊長に?」

 ケルヴァン殿下の質問詰めに、私は大きな溜め息を吐きます。

「さっきから、質問ばかりですわね。少しは考えてはどうです?」

 ケルヴァン殿下は脳筋ですが、考えることができる脳筋ではなかったのですか? 少し上がった評価が下がりますわよ。

「……あっ!! 隊長がSSSクラスの最高位ハンターだからか!!」

 そうですわ。我が婚約者で運命の番様は、この世界のハンターの中で一番強いお方なのですわ。

「気付くのが遅過ぎますわ。考えてみてくださいな。何の後ろ盾もないまま、エルヴィン王国の現状を報告して、ハンター協会が動くと思いますか? ましてや、ハンターを完全に敵に回した状態で」

「……絶対、動かないよな」

 それぐらいわかってくださらないと、話になりませんね。よかったですわ。話が通じて。

「ええ、動きませんわ。ハンター協会は慈善事業ではありませんのよ。逆に、とてもシビアな場所ですわ。命を賭けてますもの。故に、シオン様に相談するのが一番なのです」

 そこまで説明すると、ケルヴァン殿下は途端にシュンとなります。

「……本当に、いいのか? とんでもなく迷惑を掛けてないか?」

「それ、今言います?」

「……悪い。今更だったよな」

「ですよね」

 まぁ、形だけの依頼料は支払ってもらってますが、完全に巻き込まれた形になっていますよね。あくまで、ケルヴァン殿下側から見てですが。

 私的には、渡りに船でしたけどね。腐石が気になりましたから。勿論、ケルヴァン殿下には内緒です。ケルヴァン殿下には悪いですが。

 それはさておき、シオン様の居場所は手に取るようにわかります。前にも申しましたが、魔力を記憶してますからね、魔力を追えば、自ずとシオン様の所に辿り着けます。

 それは私だけでなく、シオン様もですけどね。ただ……シオン様の場合は、私とは少し違いますが。匂いって言ってましたね。正直少し引きますが、竜の血を引いてる故なので、あまり深く考えるのは止めますわ。

 例え、数百メートル先にいて、建物の影で私たちの姿が見えないはずなのに、「セリア!! 会いたかった!!」と嬉しそうに言って颯爽と姿を現し、抱き上げてもです。これくらいでは、驚かなくなりましたわ。慣れですね。

「婚約者様、お仕事はどうしたのです?」

 お仕置きは、まだ続いてますの。

 途端に、テンションがガクンと下がるシオン様。でも、抱っこしたままです。

「勿論、ちゃんと仕事はしている。休憩なく働いていたんだ、セリアと会話する時間ぐらい見逃してくれ」

「私はそこまで、厳しいことは申しませんわ。婚約者様がきちんと仕事をなさる方なのは、小さい頃から間近で見てきてますから」

 にっこりと笑うと、とても幸せそうに破顔するシオン様。

 ケルヴァン殿下と侍女たち、そして案内人は視界に入ってませんね。それが、少し、いえ、かなり嬉しいと思っている私も大概ですよね。ほんと、シオン様は色々な意味で最強ですわね。勝てませんわ。

 さっきとは違う意味で、溜め息を吐きます。

「セリア……?」

 私の溜め息に、シオン様は不安そうな表情を見せます。

 私の行動一つでコロコロと表情を変える。どうやら、その表情の違いは、私とごく一部の者しかわからないようですが。

「少しお時間を頂けませんか? シオン様」

 結局、私はシオン様にとことん甘いのです。




 
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