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いざ、エルヴァン王国へ
第十五話 では、聞きましょうか
しおりを挟む「セリア皇女殿下、ケルヴァン殿下と従者が来られました」
執務室の扉を開け、近衛騎士が室内にいる私に伺いをたてます。
「入室を許可します。通しなさい」
近衛騎士は「はっ」と短く返事をすると、ケルヴァン殿下と従者を室内に通しました。そして、騎士は扉を閉め外で待機。
これでわかると思いますが、私がケルヴァン殿下たちを呼んだのは、城の方ですわ。まぁ呼んだというよりは、一緒に城に戻ったと言う方が正しいですね。勿論、シオン様も許可してますよ。渋々ですけどね。
「疲れはとれたかしら?」
ゆっくりと、足を伸ばして風呂に入るのは気持ちいいですからね。学生寮の風呂も、それなりに足は伸ばせて広いのですが、やはり、城の風呂にはかないませんもの。
「おかげ様で。久し振りに体を伸ばせたよ」
両腕を軽く上に伸ばしながら、ケルヴァン殿下は答えます。
「なら、よかったですわ。どうぞ、お座りになって」
ソファーをすすめると、ケルヴァン殿下は若干戸惑いながらもソファーに腰を掛けます。従者はケルヴァン殿下の後ろに控えてますが、何度も背後にある扉の方に視線を向けます。
ケルヴァン殿下は座る時だけ、視線を扉に向けましたけど、後は前を向いたままです。頬は引き攣ってますけどね。
気配を完全にたっていたシオン様が、ケルヴァン殿下が座る直前に解きましたからね。
スミスはそんなシオン様を一切気にすることなく、紅茶を淹れ、ケルヴァン殿下の前に出します。私にも。
ちなみに余談ですが、今、スミスたち側近の中で、シオン様の当たりはかなり厳しいそうですわ。
「どうぞ」
私が促すと、ケルヴァン殿下は緊張しながらカップに手を伸ばします。
明らかに背後が気になってますね。シオン様の分の紅茶がありませんもの、仕方ありませんわ。でも、この場では、シオン様の分は用意しておりません。
「魔の森産の紅茶ですわ」
背後を完全にスルーしながら、私はすすめます。
「へぇ~これが、例の……一度、飲んでみたかったんだ」
「ケルヴァン殿下って、意外と見た目に反して、甘党で紅茶好きですものね」
クスッと笑います。途端に、シオン様の額に青筋が。
「まぁな、旨っ!!」
「お口に合ってよかったですわ。……ケルヴァン殿下、いよいよ、明日ですね」
私も紅茶を一口飲んでから、そう切り出しました。
案内人の案内で、第二王子の隠れ家に明日到着する予定ですわ。コクエンたちがいなければ、まだまだ時間が掛かっていました。
「気を使ってくれたのか? 感謝する、セリア様」
素直に感謝の言葉を口にするところは、本当にケルヴァン殿下らしいですわ。彼の言葉には裏がありませんもの。
「一人で思い詰めると、突っ走りそうですからね」
「そんなことはしない。子供じゃないんだから」
「そうですか?」
ニコッと微笑みながらそう言うと、ケルヴァン殿下は罰が悪そうな顔をします。思い出していただけてよかったですわ。
あっ!? スミスがシオン様の前に移動しましたわね。ナイスですわ、スミス。そのままシオン様を抑え込んでいてくださる。
「セリア様、俺を呼んだのは、風呂や紅茶だけじゃないだろ?」
「さすが、ケルヴァン殿下ですね」
考えることができる脳筋ですわ。嫌いではありませんね。自然と口元に笑みが浮かびます。
扉の前で、スミスとシオン様の攻防が一段と激しくなってますわね。物音一つ立てないで、さすが強者たちですわ。あっ、従者が気付いて真っ青になってますわね。完全に、固まってますわ。少し可哀想ですが、そのまま固まっていてください。
「ケルヴァン殿下、覚えてますか? 町で私に声を掛けてきた、ハンター崩れの男を」
「ああ、覚えている」
「その時、私の侍女一人を付けたことは?」
「勿論、覚えている。戻って来たのか? このタイミングで」
驚く、ケルヴァン殿下。
「ええ、このタイミングで」
私がそう答えると、スーと私の後ろに移動する髪の短い侍女。私が、ハンターに付けた侍女でした。
「なるほど。だから、俺を……」
「ええ、そうですわ。明日、第二王子様にお会いする前に、知っておいた方がいいと思いまして」
「ああ、その方がいい」
触りしか知らないで乗り込むのと、現実をある程度把握してから乗り込むのとでは、大きな違いがありますわ。
「では、聞きましょうか……」
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