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いざ、エルヴァン王国へ

第十四話 婚約者様

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「すみませんが、出発前に、少し時間をもらえませんか。婚約者様に話があるのです」

 皆にそうお願いすると、全員頷きました。若干、頬がを引き攣ってますが。

 あえて、私はシオン様の名前を呼ばずに、婚約者様と言いました。正直、とても悲しくて、辛くて、怒っているのです。

 確かに、匂いは付いていたのかもしれません。隣を歩いてましたし、仕事で密着する場面もありました。ただそれだけです。

 とはいえ、竜人としての性質から考えてみれば、ありえないことをしていることは承知しております。当然、シオン様が、かなり我慢をしていることも理解しています。

 人と竜人ーー。

 種が違う者同士の恋愛は、とても難しいのだと、あらためて思い知りましたわ。

 だからといって、諦めるつもりはありません。諦めれるほどの、軽いものではないのです。

「……お話があります」

 皆には聞こえないように消音防壁を張ってから、私はシオン様の顔を見詰めながら告げます。

「何だ?」

 固い声が返ってきました。

 嫌なのですか……それとも、身構えてるのですか? どちらにしても、愛している人にそんな態度をされて、辛くて悲しいですわ。挫けそうになりますわね。

「単刀直入に申します。ケルヴァン殿下に圧力を掛けるのは止めてください。場の空気が、とても重くなります」

 ケルヴァン殿下のケを口にした途端、シオン様の顔が険しくなります。

「……やけに庇うんだな」

 絞り出したような声に、私は溜め息を吐きます。

「庇う? 何を仰るんですか。ここは敵地ですよ。それでなくても緊張しているのに、余計な負荷を掛けないでくださいませ。旅に支障がでてしまいますわ。それとも、婚約者様は旅が延びることをお望みですか?」

 シオン様から表情が消えましたわ。思いのほか、攻撃力が高かったようですね。

「婚約者様……」

 小さくそう呟くシオン様。目から光が消えてますね。私はシオン様の両腕を強く掴みます。わずかに、光が戻りましたね。

「私、昨夜のことを許してはおりません。幾ら言葉で、態度で、毎日婚約者様に愛情を示していても、一切届いてないことが、とても辛く悲しかった。無駄だとわかったのです」

「なっ!?」

 完全に光が戻りましたね。シオン様の目に映る私は、今にも泣きそうな表情をしてますね。

「……婚約者様が、匂いに重きをおいてるかは理解しております。私が婚約者様以外の異性と旅をしていることで、どんなに不快な想いをさせているのも、理解はしていますわ。それでも!! 少しでも伝わっていて欲しかった。伝わって欲しかったのです……貯金箱のように、少しづつでも貴方の心に……竜人の貴方の不安と苦しみを、少しでも取り除きたくて」

 最初は目を見て話してましたが、次第に俯き、私はシオン様の靴先を見ながら吐露します。最後は、掴んでいた手を離しました。

「……ほんと、私は馬鹿ですね。こんなに苦しいのに、貴方を嫌いになれない。離れることができない」

 泣きながら苦笑するなんて、私って意外に器用なのかしら。

 そう思った瞬間、荒々しく、シオン様は私を抱き締めました。その体が震えているのがわかるほどに。

「……すまない。俺が悪かった。昨夜もやり過ぎた。自分が抑えられなかったんだ。頼む。情けない俺を見捨てないでくれ」

 こんなシオン様を見れるのは私だけですわね。でもね、

「見捨てはしませんが、許しはしませんわ、婚約者様」

 暫くは、名前をお呼びしません。シオン様が強く望んでいた「シオン」呼びもいたしません。深く反省してくださいませ。

 愛してますわ、シオン様。

 

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