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いざ、エルヴァン王国へ
第十二話 きっぱりと断ります
しおりを挟むさっきから、背中に突き刺さり続けるのは殺気ですわ。
まぁ、殺気の対象者は私でなく、私の背後にいる体格の良い男性ですけどね。もうわかりますよね、シオン様ですわ。
そして、殺気を放っているのは、無表情の侍女。
私を泣かせ放置したシオン様を、敵視している最中ですわ。本来なら、主の伴侶となる方をそのような目で見ることは叱るべきですが、私を想ってのことですから叱れませんね。
それにしても、ほんと驚きましたわ。
早朝、ケルヴァン殿下を迎えに学園に来たら、シオン様がいるじゃないですか。とても険しい表情で。自然と身構える表情になりましたわ。するとさらに、シオン様の表情も険しくなります。悪循環ですね。
休日なのに、ダイニングに顔を出さなかった理由がわかりました。嫌われたわけではなかったのですね。ホッとしましたわ。
でも、何故?
確かに、休日は一緒にと約束はしましたが、あのような事があった後ですよ。それとも、あのような事があったからですか? そんなに私が信用できませんか?
当然のように、シオン様は私の後ろに立ちます。いつも以上に、距離近いですわ。ほぼ、抱き締められている状態ですね。侍女から殺気が漏れ出てますわ。
詳しく問いただしたいのですが、ケルヴァン殿下がいる手前、時間もありませんし問いただせませんでした。で、モヤモヤとした気持ちのまま宿屋に合流したわけだけど……。
案内人は賢いですわ。
ケルヴァン殿下と案内人は、無言のまま若干距離をとっています。とはいえ、同じテーブルを使用しているので、さほど距離があいてるわけではありませんが。気持ち的には、触らぬ神に祟りなしってとこでしょうね。
「……距離近くないか?」
食堂で朝食を食べていると、自警団の方が来ました。無事、報奨金を貰った後の台詞がこれです。目のやり場に困っているようですわ。
さすがに、膝の上ではありませんが、かなり密着してますから。
「久し振りに会った婚約者に対しての距離感としては、間違ってはいないと思うが」
頭上で、しれっと、シオン様は嘘を吐きます。
「婚約者!? 若くないか?」
隊長の台詞に、シオン様はジロリと睨みます。
「悪いか?」
とても不機嫌な声に、誰もがそれ以上何も言えませんでしたわ。
「悪くはないが……無理強いしたように見えないからいいか」
隊長の台詞に反応したのは、シオン様と私。
私は立ち上がると仲間に声を掛けます。
「話は終わったわ。貰うものも貰ったし、行きましょうか」
そのままその場から離れようとしたら、隊長と隊員の焦った声が「待ってくれ!!」と引き止めます。
「何ですか?」
尋ねる声は低い。座り直しはしませんでした。視線だけ自警団の二人に向けます。
「二人とも悪かった。謝る。だから、少しだけ話を聞いてもらえないだろうか。頼む。孃ちゃん、魔術師だろ? ちょっと、自警団に力を貸してもらえないか。なぁに、ちゃんと報酬は払う。色を付けてもいい。悪い話じゃないだろ?」
隊長は隊員と一緒に頭を下げます。必死ですね。後衛がいないのですから、当然ですけど。
「貸すわけないでしょ。エルヴィン王国に来た理由は、大切な仲間のため。それに、パーティーを組んでるのに、私一人だけ勧誘する神経が嫌」
きっぱりと断ります。
「なっ!? 待ってくれ!!」
縋る、隊長と隊員。
「触るな!!」
私に伸びる手を叩き落とすシオン様。髪と瞳の色を変えても、眼光の鋭さは隠せませんよね。
「行こう、皆」
硬直する二人を一瞥すると、私たちは食堂を出ました。
「しつこそうだから、このまま町を出た方がいいですね、セリア様」
小声で、案内人が言います。確かに、しつこそうですわ。
「そうですね。急ぎましょう」
私たちは頷くと、案内人の後ろを付いて走り出します。背後から、野太い男性の悲鳴が聞こえましたわ。勿論、誰も振り返りませんでしたよ。
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