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いざ、エルヴァン王国へ
第十一話 一夜が明けて
しおりを挟む……もうすぐ夜が明けますね。そろそろ起きないと。
「結局、一睡もできませんでしたわ」
ポツリと呟きます。
いつもより早く起きたので、侍女が起こしに来る前に用意を全て終わらせます。その後は、侍女が来るまで、ぼーと窓の外を眺めていました。
暫くして、侍女が小さくノックをしてから入室。
自然と侍女に視線を向けます。起きている私の顔を見て、珍しく侍女の表情が曇りました。そして開口一番、私に休むよう言ってきました。
「セリア様、今日は一日お休みしても宜しいのでは……」
そんなに酷い顔をしていますか? 少し顔色が悪い程度だと思いましたが。
侍女の提案に、私は軽く首を横に振り「大丈夫ですわ。ありがとう」と答えます。何か言いたそうな侍女に、私は微笑んで言葉を封じます。
少々寝なくても大丈夫だと侍女は知っていますが、昨夜の風呂の件を目撃しているので、余計に心配してくれたのでしょう。動けなくなった私を浴槽から助け出してくれたのは、目の前にいる侍女ですから。
「畏まりました。直ぐに食事の用意をいたします」
「朝はいいわ。そのまま出掛けます」
食欲がありません。どんな時でも、食欲だけはあったのに。苦笑が漏れます。別に、体調が悪いわけではなありませんから大丈夫でしょう。間違いなく、ストレスですね。
「駄目です。せめて、何か口に入れてください。ここに、お持ちしますから」
必死な顔で、侍女にそう言われたら拒否できませんね。
「わかりましたわ。残すのは勿体ないから、軽いものを少量お願いしますわ。ここに持って来る必要はありません」
軽く溜め息を吐いてから答えます。
「しかし……」
「私は、何も後ろめたいことはしておりませんわ」
だから、私は逃げたりはしない。
忙しくて食べずに出たのなら、ぎりぎり逃げたとは思われないでしょう。食べるのならばダイニングで。逃げるってことは、私が後ろめたいことをしたと言っていることと同じですからね。
ほんと、私も大概意地っ張りですよね。可愛げがないと、自分でも思いますわ。
少しでも侍女を安心させるために、ニッコリと微笑んだつもりですが、彼女には、それが強がりだとわかっているようですね。
「セリア様……」
余計に心配そうな表情で見られます。
「お願い」
私は侍女の目を見て頼みます。
「畏まりました」
侍女はそう告げると、部屋を出て行きました。
一人になった私は、改めて鏡を見ます。
酷いですね。起きた時よりも酷い顔ですわ。こんな顔をしてたら、普段、表情を変えない侍女も心配して表情を変えますね。こんなんじゃあ、駄目ですね。
バチッ!!
私は自分で両頬を叩いて気合をいれます。
大丈夫。私はシオン様の番。その事実は変わりませんわ。行き違いやすれ違いは誰にもあります。初々しい恋人同士にも長年連れ添った夫婦にも。今回のことも、竜人としての性質でしょう。前から、私に異性の匂いがつくことを嫌っていましたから。
それに……あんなにシオン様が怒ったのは、私を愛しているから。番だと思っているからです。
だから、大丈夫。
自分に言い聞かせます。
でも……あんな声音は二度と聞きたくはありませんわ。存在全てを拒絶されたようで、私は堪らなく悲しくなるのです。
気合を入れてからダイニングに向かったのですが、シオン様はいませんでした。味がしない朝食を食べている間も来られません。
私は、シオン様を完全に怒らせてしまいましたのね……
「セリア様……」
手が止まった私を心配し、侍女が私の名前を呼びます。
「大丈夫ですわ。シオン様に会えないのは寂しいですが、行きましょうか」
上手く笑顔ができませんわ。頬も冷たいですし。テーブルにも透明な水滴が。私は乱暴に目元を袖口で拭います。
「……はい」
侍女は何も言わずに、付いて来てくれます。見て見ぬ振りをしてくれてありがとう。こんなに弱い主で、ごめんなさい。
☆☆☆
いつも、応援ありがとうございますm(_ _)m
新作アップしてます。
タイトルは【俺は、妹が見ていた世界を見ることはできない】です。
異世界ものではなく、現代が舞台となっています。テーマは家族愛。ちょっぴり恋愛もあります。
読んでもらえたら、すっごく嬉しいです。
これからも頑張りますので、応援宜しくお願い致しますm(_ _)m
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