婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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いざ、エルヴァン王国へ

第八話 勿体ないですが

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 少女が連れて来たのは、町外れにある小さな教会でした。

「「ヨミ!!」」

 教会に到着したと同時ぐらいでしょうか、心配そうな、切羽詰まったような声が前後からしました。少女が繋いでいた手を離します。

 少女の名前がヨミなのでしょう。目の前にいるシスターに駆け寄ると、飛び付き泣き出しました。

 ずっと、我慢していたのでしょう。本当は怖くてしかたなかった。当然ですわ。人攫いにあったのですもの。シスターの腕の中が一番安心できる場所だから、少女は感情を吐き出せたのでしょう。

 シスターは屈み、しっかりと少女を抱き締めています。

 帰ってこれて、良かったですわね、ヨミ。心からそう思います。

「ヨミ!! シスター!!」

 少女を探しに行っていたのでしょう。少女の姿を見付け、慌てて丘を駆け上がって来ると、息を切らしながら、抱き締め合う少女とシスターを見ています。目元を潤ませながら。

 私はケルヴァン殿下の袖を軽く引っ張り、背後にいる侍女に目配せしました。

 少女を無事送り届けましたし、私たちはそろそろ戻りましょうか。長いは無用ですわ。それに、これ以上この場にいるのは無粋ですわ。そうでしょ。

 少女たちに視線を向けてから、私は踵を返しました。

「すっかり、遅くなりましたね」

 来た道を戻っていると、侍女が話し掛けてきました。

 もう完全に、陽は暮れています。町外れだからか、外灯一つありませんが、月明かりのおかげで転ぶようなことはありませんわ。

「そうですね。急いで戻りましょう」

 お腹も空きましたし。

「で、どうするんだ? 朝、自警団の隊長、来るんじゃないか?」

 途中、ケルヴァン殿下が訊いてきました。

「……泊まってないと、詮索されますよね。絶対」

 ほんと、面倒くさいですわ。あまり褒められませんが、大きな溜め息を吐いてしまいました。

「だよな」

 ケルヴァン殿下も困り顔です。

「リア様とヴァン様は、学園に顔を出さないといけませんから、泊まるのは待たしてる方に頼みましょう」

 侍女がそう提案してきました。

「そうですね。それが、一番無難でしょう。となると。部屋は一部屋だけ借りればいいですね」

 勿体ないですし。すると、侍女が反論してきました。

「さすがに、それは……貧乏パーティーではないのですから、二部屋とりましょう」

 侍女の言葉の語尾が、いつも以上に強いですわ。まぁ、特にお金に困ってはいませんから、別に私は構いませんが……要らぬ出費ですね。

「俺も侍女さんの意見に賛成だ。さすがに、人の目があるだろ?」

 目を泳がせながら、ケルヴァン殿下が言います。

「私とヴァンとの間に、何があるのです?」

 友情はありますが、愛情はありませんよ。

「何もないけどな。でも、傍から見たら、そう見られてしまうかもしれないだろ」

「別に、見られても構いませんが。痛くも痒くもありませんし」

 それに、ここはエルヴァン王国でしょ。特に被害が出ることも、変な噂が出ることもありませんわ。そもそもこの場にいるのは、ハンターのリアであって、セリア・コンフォートではありません。セリア・コンフォートは学園に毎日通ってますわ。

「そこまではっきりと言われたら、何も言い返せねーな。でも、隊長に知られる可能性は考慮した方がいいんじゃないか。実際には泊まらなくても、いい顔しねーだろ。隊長の執着心、舐めたら駄目だ」

 シオン様の執着心……

 た、確かに、下手したら、半監禁生活突入ですが、さすがにこの場の出来事までは……知られないと断言できませんわ。悲しいかな、十分ありえますわ。
 
「……ふ、二部屋、喜んでとりますわ」

 若干青い顔をしながら、私は答えます。月明かりでわかりませんけどね。悪寒が全身を駆け巡ります。風邪を引いたわけではないのに、寒気までしてきましたわ。

「それが宜しいかと」

「ああ。俺も、まだ死にたくはないからな」

 侍女とケルヴァン殿下の台詞に、私は何と答えたらいいかわかりませんでした。なので、苦笑しながら、話題を無理矢理終わらせました。

「急ぎましょう。ほら、早く」

 私は二人を急かすと、小走りで来た道を戻りました。

 食堂まで、あと少しです。


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