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いざ、エルヴァン王国へ
第六話 視線の先は
しおりを挟む悲鳴がしたのは、路地裏からでした。
とはいえ、大通りから一本それただけです。なので当然、大通りを歩く人たちにその悲鳴は聞こえたはず。なのに、誰一人、子供を助けようとはしません。
反対に、厄介事から逃げようとする始末。私たちと視線が合うと、慌てて顔を逸らします。罪悪感はあるけど、巻き込まれたくはないのでしょう。たいした隣人愛ですね。ケルヴァン殿下の前ですが、チッと舌打ちしてしまいましたわ。
私たちが現場に到着すると、薄汚いならず者三人がいました。その足元には、大きな麻袋が一つ。
おかしいですわね。麻袋が勝手にデコボコと動いていますわ。
「人攫いですか……下衆が!!」
低い声で恫喝します。ケルヴァン殿下は剣を抜き構えます。
「悪いか。これも、立派な商売なんだぜ。姉ちゃん、俺たちがこんな商売をするのは、国が悪いからじゃねーか。姉ちゃんたち、美人だな。若いし、子供よりも商品になりそうだな。イヒヒ」
なぜか、余裕綽々でならず者のリーダーらしき人が答えます。隣で、ケルヴァン殿下が動揺してますわ。目の前の男たちは気付いてないけど。
「国が悪い? はぁ? 何言ってるの? 自分が落ちぶれたのを国のせいにして、ほんと情けないわね。そんなことより、さっさとその子を離しなさい!!」
私が厳しい声で言い放つと、男たちはニヤリと下品な笑みを浮かべました。
「代わりに、姉ちゃんたちが俺たちと一緒に来てくれるのなら、解放してやるぜ。まぁ売る前に、色々と味見してやるけどな」
男たちは何かを想像したのか、私と侍女を見てニヤニヤと嗤う。気持ち悪くて吐き気がしますわ。こういう輩はさっさとのしましょう。穢れますわ。
「下衆な目で見るな。穢れる」
行動に移そうとした時でした。ケルヴァン殿下が私と侍女の前に立ち塞がり、私たちを男たちから目に入らないようにしてくれます。
「あぁ!? 女の前で良い格好したいんだろうが、男はいらねーんだよ。あっ待てよ、お前のような顔だけの男を欲しがる奴も多いよな。だったら、適当にのして転がしとけばいいか」
男がそう言うと、仲間が下衆な提案をしてきた。
「だったら、男の前で姉ちゃんたちを可愛がってやればいいんじゃねーか」
「でもよ、この姉ちゃん、可愛がる場所あるのか?」
そう言った男の視線の先は、私の胸。
他の男たちも「そうだよな」と同意し笑いだす。皆、私の胸を見ていました。
「だったら、俺たちが育ててやろうじゃねーか」
「「そりゃあ、いいな」」
下衆な提案に笑い声で答えます。路地裏に下衆な笑い声が響きます。
ブチッと堪忍袋の緒が切れましたわ。淑女の顔、ハンターの顔、それが何!?
「はぁ!? 何を育てるって!?」
とてもとても低い声で尋ねます。
前にいるケルヴァン殿下が、思わず横に退くぐらいの威力はあったようですわ。人攫いの男たちも後退りしています。
「ねぇ、私が訊いているのだから、答えてくれないかしら?」
ケルヴァン殿下がいなくなったので、一歩前に踏み出します。その分、男たちは一歩下がります。
「ねぇ?」
「「「…………」」」
息を呑む無言の男たちに、私は再度尋ねました。わざわざ、こちらから訊いてあげたのに、男たちは無言を貫いています。
「先程の威勢はどこにいったの? しょうがないわね。まぁいいわ、下衆な犯罪者に、これ以上時間をさくのは嫌だし、無駄よね」
私はそう言い捨てると、掌に蒼白い炎を作り出します。
実はこの蒼白い炎、ちょっと特殊な炎ですの。
「「「なっ!? 魔道士か!?」」」
何故、驚くのかしら。パーティー内に魔道士がいるのは、特に珍しいことではないのに。
「ええ」
私が頷いたと同時に、掌にあった蒼白い炎は消え、男たちの足元で燃えます。それはあっという間に、男たちの全身に燃え広がり、包み込みました。
痛みと熱さで、悲鳴を上げ転げまわる男たち。
私はそれらを冷たい目で一瞥すると、麻袋に近付き袋を開けました。中から出て来たのは、六歳くらいの女の子でした。
「大丈夫?」
恐怖で震えている少女に、優しい声で話し掛けます。
「…………はい」
気丈な子ね。お使いの帰りに襲われたようですね。
「よかった。転がってる汚いものは、見なくていいわ。目が穢れるから。家はどこ? 送って行くわ」
頭を撫でてあげながら、私は少女に微笑み掛けます。どうしてかしら? 若干、少女が引き攣ってる気がするのですが。
「あ、ありがとうございます」
それでも、無理にニコッと笑おうとする少女を、気付けば私はソッと抱き締めていました。そして、小さな背中をポンポンと叩きます。
小さい時、シオン様がよくしてくれました。魔物の死体に恐怖した時とかに。
小さな手が、おずおずと私に伸ばされ抱き返してくれます。と同時に、少女は火が付いたように泣き始めました。
私は少女が泣き止むまで、少女を抱き締めました。
男たちですか。
侍女が素早く拘束し、猿轡を噛ませていました。蒼白い炎は、実際の炎ではありませんの。実際の痛みを忠実に体験できる幻覚ですわ。だって、殺すわけにはいきませんからね。一応、他国ですし。
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