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いざ、エルヴァン王国へ

第二話 忘れないでください

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 表向きは学園に通っている風を装っております。その方が自由に動けますからね。可哀相だけど、従者君は我慢ですわ。

 そんな私たちが、目下向かうのは国境です。

 一週間は掛からないと予想していた通り、五日で目的地近くに到着しました。ここからは徒歩で参りましょう。

 でもその前に、容姿を変える必要がありますね。

 国境を越えるには、少しばかり、私の黒髪と黒目、ケルヴァン殿下の容姿は目立ちますから。それに、私たちを知っている者がいる可能性も高いですからね。こういう時、魔法って便利ですわ。

 まず、魔法で髪の色を変えました。

 黒から白銀に。瞳の色は薄い金色に。薄紫だとバレる可能性がありますからね。お父様とリムお兄様の色ですから、髪色だけで。髪と瞳の色が変わっただけで、雰囲気がとても変わりましたわ。大人しい感じに。冷たい感じが半減しましたわ。不思議ですよね。

 当然、ケルヴァン殿下も魔法で容姿を変えます。私と同じように髪と瞳の色を変えたのに、そんなに変わった気がしないのは私だけかしら。念のために、顔に傷でも付けておきましょう。これで、ガラリと雰囲気が変わりましたわ。王子とはいえ第三王子、そもそも彼の顔をはっきりと知る者は少ないでしょうから、これで十分ですわね。

 国境を越える際には、ハンターカードの提示が必須なのですが、ハンターカードには姿絵はありませんから誤魔化せますわ。ちなみに、全員偽名です。これも、おかしなことではありません。なぜなら、私やケルヴァン殿下のような、高位貴族が取得する場合があるからですわ。それ以外にも、本名を隠す必要の職種や家の者もいますしね。簡単に言えば、提示用のフェイクがあるのです。私の場合は、リアで登録していますわ。

 その間、コクエンたちはお休みです。かなり窮屈だと思いますが、コクエンたちは私の影の中で休憩していますわ。できることなら、そのまま傍いて欲しいくらいです。本気でお母様にお願いしようかしら。

 さて、準備が整ったので、

「では、行きましょうか」

 容姿を変えた私たちは、フードを目深く被り公道に合流します。パッと見は冒険者のパーティーですわ。

「皆、暗い顔ですね……」

 公道を行き交う人はまばらで、すれ違う人の表情は暗い。

 それを見たケルヴァン殿下の表情も、とても厳しいものになっています。国民に、そのような表情をさせているのが、自分たち王族だと自覚しているからでしょう。国民の表情で、国の優越が図れますからね。争うのは勝手です。それぞれ、譲れない矜持と欲望があるのですから。でも、その犠牲になるのは、戦う力を持たない国民なのです。

「……ケルヴァン殿下、彼らの表情を忘れないでください。あのような表情をさせているのは、貴方の兄たちなのですから」

 小声で、隣にいるケルヴァン殿下に話し掛けます。

「わかっている……」

 ケルヴァン殿下の声は軽くはなく、重たいものでした。ここから先、ケルヴァン殿下が目にする光景は、今以上に厳しいものになるでしょうね。そう思いながら、私は答えます。

「なら、いいですわ」

 それから無言のまま歩くこと二十分ぐらい。思いの外、関所は混んではいませんでした。

「次」

 ざわつく中、十分ぐらい並んで待っていると、私たちの順番が回ってきました。フードを外します。

 目の前にいる兵士に、私とケルヴァン殿下、冒険者の服に着替えた侍女二人はハンターカードを手渡します。

「なぜ、エルヴァン王国へ?」

 兵が尋ねます。

「出稼ぎです。魔物の繁殖期が終わりましたから」

 代表して、ケルヴァン殿下が答えます。

「ああ、傭兵目的か」

 私が考えているよりも、エルヴァン王国に渡る人は多いようですわね。すぐに、その単語が出ましたから。

「ええ」

 ケルヴァン殿下が答えると、兵士は険しい顔をしながら教えてくれました。

「行くのは構わないが、くれぐれも注意しろよ。それと、ある程度稼いだら、欲を出さずにすぐ戻れ。隣国、かなり荒れているようだからな」

「わかりました」

 そう答えるケルヴァン殿下の心中は、かなり荒れていますわね。とても固い声を聞きながら、私は心の中で呟きます。

 とりあえず、無事、関所を通過できそうですわ。


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