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いざ、エルヴァン王国へ

第一話 モフモフは正義です

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 旅の初日。

 雲一つない快晴です。旅日和ですね。なのに……

「……本当に、これに乗らなきゃいけないのか?」

 及び腰のケルヴァン殿下が、自分を見下ろしている召喚獣を指差しながら尋ねてきます。

 往生際が悪いですね、男でしょ。

「公道が使えませんからね。戸惑う気持ちもわかりますが、乗った方が早く安全に移動できますわ。それとも、単身、森を移動しますか? 魔の森ではないとはいえ、じゅうぶん自殺行為だと思いますよ」

 そう答える私も、召喚獣に乗るのは初めてです。馬なら乗れますが、狼はちょっと……そもそも、お母様が、召喚獣を召喚できるとは知りませんでした。さすが、【黒炎の魔女】。なんでもありですわ。

 お母様が貸してくれた召喚獣は三頭。

 それも、なんと魔狼の最上位種のフェンリルでした。さすがの私も、目が点になりましたわ。

 魔物の討伐に長年携わっていますが、今までフェンリルを見たことはありません。それもそのはずですわ。だって、フェンリルって、伝説級の魔物ですからね。とはいえ、魔物感はありませんわ。不思議ですね。通常の魔物のような、魔の森の淀みから生まれたものとは明らかに存在感が違います。

 一般に、魔物は全て魔の森の歪みから発生すると、考えられていますからね。腐竜は別として。

 なのに、この目でフェンリルを見て感じた点は、魔物でありながら、どこか、神聖さを持っていることでした。本当に不思議な生き物ですわ、フェンリルって。とても興味深い。そして、可愛い。

 漆黒の毛皮のコクエン。

 純白の毛皮のソラ。

 灰色の毛皮のコガネ。

 どうやら、瞳の色で名前を付けたようですね、お母様。コクエンだけは、少し違う気がしますが。

「わかってはいるが……」

 まだ戸惑っているケルヴァン殿下に、少しイラッとした私は、やや乱暴な口調で答えます。

「男が何、ゴチャゴチャ言っているのですか!! ほら、さっさと乗ってください」

 私の声に反応するように、召喚獣のソラがケルヴァン殿下の襟首を咥えると、ポイッと器用に背中に放り投げます。

「ウワッ!!」

 ケルヴァン殿下は短い悲鳴を上げると、慌てて真っ白な毛にしがみつきます。

 私はコクエンの背に。フワフワしてて気持ちいいですわ。これは、癖になりますわね。撫で撫ですると、尻尾が勢いよくブンブンと左右に振って、とてもとても可愛いですわ。日向の匂いも最高です。

 侍女二人は胸元のから、コガネの背に。全員、召喚獣の背に乗ると、召喚獣は走り出します。

 公道とは正反対の方角に向かって。その先は森ですわ。まずは、森を抜けて国境まで行く予定ですわ。

 これで、かなりの時間短縮になります。

 公道は森を迂回するように通っています。学園からエルヴァン王国の国境までは、通常、馬車を使って三週間は有にかかりますね。

 でも、森を直進し通り抜ければ、公道の半分で済みますわ。ましてやフェンリルでの移動、一週間ぐらいで着きますわね。

「思ってたより、なかなか良い乗り心地だよな、セリア様」

 ケルヴァン殿下が話し掛けてきました。さっきまでの、及び腰はなんでしたのでしょうね。目がキラキラと光ってますわ。脳筋特有の単純さですわね。でも、賛同しますわ。

「ええ。最高ですわ。に感謝しなくてはいけませんわね」

 言い慣れませんわ。つい、お母様と言いそうになります。気を付けないと。ちなみに、従姉妹の設定ですわ。普通に見て、まず親子とは見えませんからね。

 おわかりのように、ケルヴァン殿下には、お母様のことは内緒にしております。リーファたちのように早々にバラせませんわ。まぁあの時は、お母様からバラしましたが、今回はそうではありませんでした。やはり、ケルヴァン殿下がエルヴァン王国の王家だからでしょうね。

 それでも、コクエンたちを貸してくれたのです。それだけで、十分ですわ。感謝しかありません。だって、旅が延びれば延びるほど、シオン様の機嫌が悪くなりますからね。

「だな。この旅が終わったら、直接、お礼がいいたい」

 ケルヴァン殿下にとって、他意のない台詞でしょう。だから私は、曖昧に微笑むしかできませんでした。

「そうですわね……」

 そう答えるしかないでしょ。

 ご自身の命のためにも、止めた方がいいとは言えませんわ。突っ込まれそうですから。今回の件も、内心、お父様はかなりご立腹でしょう。お母様に異性が近付くこと事態、許せませんからね。例えそれが、幼い子供でも。我が親ながら、少々気持ちが悪いですわ。

 シオン様は違いますよ。シオン様はそこまでではありませんわ。でなければ、この旅を許してはくれませんわ。学園も通わせてもらえませんわ。

 お父様は闇。シオン様は光ですわ。それほどの差があります。

「このスピードなら、一週間、掛からないんじゃないか?」

 ケルヴァン殿下の言葉に、考えごとを一旦止めます。

「そうですね。二時間走り続けてますが、結構進みましたね。そろそろ、休憩しましょうか?」

「そうだな」

 まだまだ行けそうですが、休める時に休む。これは、ハンターとしては鉄則ですわ。

 私はコクエンから降りると首筋を撫でます。

「ありがとう、コクエン」

 大きくて厚い舌が、私の頬を舐めます。ほんと、可愛いですわ。モフモフは正義といいますが事実ですわね。コクエンの首に顔を埋め、思いっ切り息を吸い込みます。嫌がらないなんて、なんて良い子でしょう。もちろん、お礼にコクエンの鼻先にキスをしましたわ。その様子をバッチリと撮られているとは知らないで。

 再度、コクエン吸いをしながら、私は心に誓います。旅が終わっても、お母様にお願いしてコクエンたちと会わせてもらおうって。

 モフモフは最高ですわ!!

 
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