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エルヴァン王国の秘宝
第十八話 この手しかありませんね
しおりを挟む「外傷は全て綺麗に治りましたわ。でも、失った血は再生できません。二、三日は安静にしてくださいね」
従者君は、学園内にある病院のベッドで泥のように眠っています。
私の屋敷で保護してもよかったのですが、シオン様の機嫌が悪くなるに決まってますからね。自分以外の異性が泊まることをよしとはしませんもの。かろうじて許されるのは、私の家族と側近たちだけですわ。竜人の性ですわね。お祖父様に比べれば、まだマシですけとね。
「ああ。一週間ほど入院させる」
ケルヴァン殿下は、温かい目で、自分の従者の寝顔を見ながら答えます。
「それがいいですわ。……ケルヴァン殿下?」
ケルヴァン殿下は私に向き合うと深々と頭を下げました。
「ありがとうございます、セリア様。貴女のおかけで、従者も俺も生きている。本当に助かった……」
大事な人のために、躊躇なく頭を下げられる。
ほんと、王族なのに、全く王族らしくない人ですね。貴族らしくもありませんわ。でも……こういう、飾らないところが、人を惹き付けるのでしょうね。私も、友人として、力になりたいと思っていますもの。
「顔を上げてくださいな、ケルヴァン殿下。たいしたことはしておりません。友を心配しただけですわ」
「そう言ってもらえると助かる。でも、よくわかったな」
不思議そうな表情で尋ねてきました。
疑われるようなことはしてませんが、それでも、少しは疑うことを覚えるべきだと思いますが、そこが彼らしいといえば彼らしいのでしょうね。
「明らかに、食堂の様子がおかしかったもの。貴方がたを知っている者なら、誰でも従者君に何かあったと思うでしょうね」
「そんなにおかしかったか?」
ケルヴァン殿下にとっては、精一杯頑張ったようですけど。
「おかしかったですわ」
「そういうの、俺はどうしても苦手だ」
「でしょうね」
少し拗ねたケルヴァン殿下の表情が面白くて、自然と口元が緩みます。
「……セリア様、どうして、奴らはマリエラ様の遺物を持ち帰ろうとしたんだ?」
今更の質問ですね。
「それを、私に訊きますか?」
「……竜石か」
「そう考えるのが無難ですね」
「その割には、行動が早かったと思うが」
あら、ケルヴァン殿下にしては冴えてますね。ここは下手に隠すのは悪手ですわね。なんせ、ケルヴァン殿下は、動物的勘が働くというか……瞬時に、嘘かどうかがなんとなくわかるそうですから。
「ケルヴァン殿下は、シスターを覚えてますか?」
「ああ。少し前に、学園を追放されて国に帰った、勘違い女だろ。その女がどうしたんだ?」
勘違い女って。思わず、口角が上がりますわ。
「ええ、そうです。覚えてませんか? 彼女もまた黒髪、黒目だったと」
「そういえば、そうだったような……」
ケルヴァン殿下、心底興味がなかったのですね。そういえば、関わり合いたくなくて、砦に逃げていましたからね。その砦に直撃された時は固まっていましたね。まぁ、シスターが狙っていたのはシオン様でしたけど。
「襲われたのです。帰りの道中で」
「襲われた!?」
「ええ。シスターはシオン様を狙っていましたからね。ちゃんと帰るか心配だったのです。なので、手の者を見張りに付けたのですが……」
「エルヴァン王国で襲われたのか?」
ケルヴァン殿下の問に頷きます。
「ええ。その時は、まだ半信半疑でしたわ。あくまで、想像のいきでした。でも、念のために入国者に目を配っていましたの。そしたら、貴族らしき人が商人や冒険者として入国したと報せを受け、見張っていました」
「それが、墓地で捕まえた奴らか?」
「はい」
考え込むケルヴァン殿下。
「……セリア様。我が国の者が迷惑を掛けて、本当にすまない。捕まえた奴らは、平民として、然るべき罪を償わせるべきだと、俺は考えている」
「ケルヴァン殿下に言われなくても、そうしますわ。それで、ケルヴァン殿下はどうなさるつもりですか?」
笑みを浮かべながら尋ねます。
「…………一度、内密に国に帰り、兄と会おうと思う」
竜石の件を報せにですか。
「第二王子様にですね」
今度は、ケルヴァン殿下が頷きます。
「ああ」
「第一王子様の手の者に気付かれずに、第二王子様に会おうと。ケルヴァン殿下一人なら、なかなかハードルが高いですね」
現実を教えてあげると、理解しているのか、ケルヴァン殿下は厳しい表情をしています。そんな彼を見て、私は軽く溜め息を吐きます。
「文では駄目ですか?」
「ことは、竜石だからな」
その気持ちは理解できますわ。
「しかし、捕まれば、第二王子様の足枷になってしまいますよ。下手をしたら、第二王子様を死に追いやる結果になりかねません。それでも、母国に帰ると?」
そんな険しい顔をしても、それが現実です。
「だったら、どうしろと言うんだ!!」
怒鳴っても、現実は変わりませんよ。さて、どうしたものか……
この場で帰るのを断念しても、一人になれば、また第二王子と国のことを心配し、勝手に先走り、行動を起こすのは目に見えています。歯止めになる従者君はいませんからね。そうなれば厄介ですわ。砦で、何も考えられないほど訓練する手もありますが、その手は違う気がします。
ほんと、厄介な案件ですわね。溜め息が出ますわ。仕方ありませんね。こうなったら、この手しかありませんわ。
「ケルヴァン殿下、雇いませんか? 護衛のハンターを」
私の提案に、ケルヴァン殿下の表情はみるみる間に明るくなりました。
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