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エルヴァン王国の秘宝

第十七話 皇国は平等ですわ

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「…………セリア様……」

「……セリア皇女殿下」

 鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情ですね。ケルヴァン殿下も、従者君も。

「もう、大丈夫ですよ、ケルヴァン殿下、従者君」

 私は二人にそう声を掛けてから、二人を庇うように前に立ちます。斜め後ろに控えていたスミスが、従者に回復薬を飲ませ、半量を足の傷に直接振り掛けながら告げます。血が止まり、傷が綺麗に消えていく。

「応急処置です。事が終わり次第、治療いたします」

 その報告を聞いて、内心ホッと胸を撫でおろします。安心しましたわ。

 目視で従者君を確認してから、私は唯一立っている男に視線を向けます。

 こんな輩に魔法を使うのは勿体ないですわね。剣も汚れますわ。なので、【威圧】することにしましたわ。低レベルでも、動きを封じることはできるでしょうから。

 現に、ガクガクと足が震え、立つこともできずに尻もちを付いてます。そんな男を、私は侮蔑を込めた目で見下ろします。

「ーー殺人未遂、拉致監禁、恐喝、不敬罪、立派な凶悪犯ですね。それも現行犯、言い逃れはできませんよ」

 させませんけどね。

「なっ、なにを、横暴な!! 私はエルヴァン王国の貴族だ!! この国の法では裁けないはずだ!!」

 腰を抜かしても、悪態はつけるのですね。レベルをあげましょうか。

 それは別して、何、馬鹿なことをほざいてるのでしょう。先々代ならそれも通用していましたが、今は違いますわ。他国の貴族が我が皇国で罪を犯したら、皇国の法にてらして裁かれますよ。

「何十年前の話をしているのですか」

 呆れてしまいますわ。

「はぁ!?」

 ガラ悪いですわね。

「そもそも、貴方は貴族ではないでしょう。エルヴァン王国の貴族が入国した記録はありませんよ。平民が入国した記録はありますが」

「わ、私は貴族だ!!」

 汚いですね。つばが飛んでますわよ。この男、醜すぎますわ。本性が出たってことかしら。

「ケルヴァン殿下、この犯罪者は、貴方の母国、エルヴァン王国の貴族なのですか?」

 私は背後にいるケルヴァン殿下に尋ねます。

「いや、違う。俺の母国に、こんな屑はいない」

 ケルヴァン殿下は断言しました。

「なっ!? 嘘を吐くな!! 私はーー」

「屑ですって。身分偽証罪も追加されますね」

 最後まで言わせる必要はありません。時間の無駄ですわ。それに、不愉快な雑音ですし。

 それにしても、ケルヴァン殿下が否定するとは、つゆほどにも思っていなかった様子。その考えにいたった思考回路は、私たちとは完全に違うものですわね。

「違う!! 私は貴族だ!!」

「だから?」

 もしそうだてしても、変わりませんよ。その思いを込めて、そう尋ねたら、男は呆然とし言葉を失います。

「くっ……」

「だったら、何故、身分を偽証して入国したのですか?」

 またしても、男は何も言えないでいます。「貴族だ!!」と宣言したら、訊かれるに決まってるでしょ。ほんと、馬鹿ですよね。

 そもそも、反論できるわけありませんよね。それが悔しいのか、唇を強く噛んでいます。

 私は片手を上げ合図します。騎士たちが賊を次々と捕縛していきます。最後に残ったのは男一人。二人の騎士に肩を抑えられて、無理矢理両膝を付かされています。痛みに顔を歪めながら。

「我が皇国は、罪を平等に裁きます。平民、貴族関係なく。それは、他国の貴族でも変わりません。我が学園の生徒に手を出したこと、マリエラ様に手を出したこと。どちらも許しませんわ。覚悟しなさい、下郎が」

 絶対零度の視線と声を男に投げ掛けます。結局、男は何も発することなく、連行されて行きました。

 後に残ったのは、私とスミス、それとケルヴァン殿下たちだけ。私は友人に手を差し出します。

「……それじゃあ、私たちも戻りましょうか。学園に」

「ああ……帰ろう」

 ケルヴァン殿下は私の手を取り笑った。少し影のある笑顔でしたけど、笑みを浮かべることができて、私は安心しました。




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