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エルヴァン王国の秘宝
第十三話 少し羨ましいですわね
しおりを挟む翌日の早朝。
再教育を免れたクラン君が、早速報告しに来ましたわ。
「セリア様、例の賊たちですが、一日ももたなかったようですよ」
つまり、簡単に落ちたってことですわね。特に驚きはしませんわ。賊たちは、さぞかし心を挫かれたことでしょうね。
「まぁ、当然ですわね。相手が、悪過ぎますわ。重罪犯専門の尋問官ですからね。プロ中のプロ。そこらへんの貴族が耐えれるわけありませんわ。……それで、賊たちは何と?」
「セリア様の想像通り、墓地を荒らしに来た理由は、マリエラ様の遺骨と遺髪を盗むためです。後、周囲の土も持ち帰る予定だと、自白しました」
予想が当たっても嬉しくはありませんね。
「土もですか。……盗む理由は?」
「竜石の力を目覚めさすためだそうです」
わかっていたことですが、あまりにも自分勝手な思想に嫌悪感がわきますわ。
「なら、当然、自分たちは平民ではない、貴族だと世迷言を言ってたのではなくて?」
「言っていたようですが、世迷言として、誰も本気にはしていません」
本気にしないよう、根回しはしていますからね。信じる馬鹿はいないでしょう。
「それで宜しいですわ」
問題は、黒ネズミが報告に行こうとしていた相手ですね。
その人物がどう出るかーー。
もし私なら、ケルヴァン殿下を狙いますね。直接ケルヴァン殿下には言えなくても、彼の従者ならば伝える機会はあります。ハードル自体そんなに高くはないでしょう。
だとしたら、一日もあれば繋ぎは取れるでしょうね。いや、取ろうと必死になるでしょうね。命が掛かっておりますもの。
なら、そろそろ、アクションがあるはずですね。
「スミス、クラン君、四時間目からは出ますわ」
ここには、限られた人物でしか入室が許可されていませんからね。
「あら、珍しいわね。授業を受けにきたの、セリア」
リーファが驚きながら尋ねてきました。
「ええ。気分転換にはもってこいですからね。リーファこそ珍しいですね。てっきり、潜ってるとばかり思ってましたわ」
「去年はそうだったけどね。今年は少し控えてるのよ」
「あら、どうしてですか?」
「出ないといけない、お茶会やパーティーがあるからよ。ほんと、面倒くさい。セリアは大丈夫なの?」
リーファは溜め息を吐きながら訊いてきます。
「何がです?」
「日焼けとかよ。いくら予防してても、やっぱり焼けてるでしょ。っていうか、今気付いたの」
ハッと気付いた私に、リーファは呆れ顔になります。
私としたことが。完全に失念していましたわ。今から間に合うかしら。早速、侍女に要相談ですわね。
そんなことを考えながら、リーファとの会話を楽しんでいると、固い声が割り込んできました。
「……セリア様、少し時間をいただけるだろうか?」
ケルヴァン殿下でした。やっぱり来ましたわね。
「構いませんわ。場所を移しましょう」
私がそう答えると、ホッとした表情をするケルヴァン殿下。私の返答に何かを察したのか、リーファは何も言わずに送り出してくれました。
「助かる。すまない」
「気にしなくてよろしいですよ。少し早いですが、ランチにしましょうか?」
「ああ」
というわけで、私はケルヴァン殿下と一緒にランチを食べに食堂に来ました。
切り出しにくそうなケルヴァン殿下。まぁ内容が内容ですからね、仕方ありませんわ。ならば、私が手助けしてあげましょう。念のために、遮音結界も張っておきましょう。時間外とはいえ、学生の姿がちらほらありますからね。
「先日、墓荒らしの賊が捕まりましたの。ご存知?」
「墓荒らし?」
ケルヴァン殿下の表情が険しくなります。
「ええ。マリエラ様の墓を暴こうとしていたらしいですわ。死者を冒涜する行為とは思いませんか?」
「それが本当なら、決して許されぬ行為だ」
さらに、ケルヴァン殿下の表情は険しくなります。声も低くなります。
「私も同感ですわ。どうかしましたか? ケルヴァン殿下」
「……そもそもどうして、マリエラ様の墓を暴こうとしたんだ?」
「マリエラ様は生前、綺麗な黒髪でしたわ。その髪と骨には、まだ魔力が残っているのです。普通の魔術師よりも」
「つまり、やつらは、その遺物を使って、何かをしようとしたのか?」
「そうなりますわね」
「最低なやつらだな……」
ケルヴァン殿下、怒気を隠せていませんね。
「同感ですわ。それにしても、神をも恐れぬ行為とは思いませんか? ケルヴァン殿下。再犯者が出ると困りますので、厳しく処罰するつもりですわ」
さぁ、何と答えます。
「当然だ。厳しい処罰にするべきだ」
そう答えるケルヴァン殿下の目は、濁りは一切ありませんでした。
本当に真っ直ぐな方ですわね。その真っ直ぐさ、少し羨ましいですわ。
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