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エルヴァン王国の秘宝
第十二話 報告までが試験です
しおりを挟む「あ、あ、もう止めてくれ!! 悪かった、謝るから!!」
黒ネズミは尻で路地裏の石畳を後退っています。必死で手を伸ばし、少しでもゴーストから逃げようと足掻いています。
黒ネズミは完全に私をマリアナ様と思い込んでいますわね。特別な細工はいたしてないのですが。まぁ、この髪色のせいでしょう。ローブも深く被ってますし。私とは気付かれていません。霧もいい役割を果たしてくれてますわ。
私は黒ネズミに一歩近付き、手を伸ばします。
すると、弾かれたように黒ネズミは転けながらも這うように逃げ出した。
私は斜め上に目を向け手を上げます。視線の先にはスミスが。彼は小さく頷くと、黒ネズミを追い掛けます。
黒ネズミはさぞかし混乱しているでしょうね。
逃げでも、逃げても、袋小路に入り込んだみたいに抜け出せない状況。そして、行き止まりに追い込まれる度に私が姿を現す。一歩づつ近付きながら。
地道に五回ほど繰り返すと、黒ネズミは何故か濡れネズミになっていました。途中、水路に落ちたらしいですわ。やっとのおもいで岸に這い上がると、人の気配が。顔を上げると、男が無言のまま立っていた。もちろん、スミスですわ。今度は私が屋根の上に。
「……ア、ア、アーーーー!!」
悲鳴を上げ、仰向けになった黒ネズミ。ネズミからカエルに種族を変えたようですわ。
凍り付いたように動かなくなった、カエルさん。これは不味いですわね。なら、刺激を与えてみますか。ゴーストに付きものといえばコレですね。
私は認識阻害の魔法を自分に掛けてから、路地に降りました。そして、側にあった木箱をカタカタと揺らします。
ビクッと身を竦ませる、カエルさん。
駄目ですか。ならば、倒してしまいましょう。幸いにも、空箱ですし。一個で無理ならニ個。
あっ!! やり過ぎましたわ。
泡を吹いて倒れてしまいました。スミスが軽く蹴りますが、ピクリとも動きません。仕方ありませんね、少し省略しますか。
面倒くさそうに、スミスはカエルさんを肩に担ぎます。もちろん、連れて行く場所は決まってますわ。
さて、最後の仕上げをしましょうか。
翌朝。
作業場で執務をこなしていると、ドアをノックする音が。入って来たのはクラン君でした。
「セリア様、おはようございます」
「おはよう、クラン君。無事、賊を捕えたと聞いております。ご苦労さま」
ちゃんと、労いますよ。大事ですからね。
「ありがたいお言葉、とても嬉しいです。捕えた賊ですが、重罪犯を収容する牢屋に放り込んでいます。いつでも尋問可能な状態ですが、どうなさいますか?」
追加得点をあげないといけませんね。重罪犯の牢屋になんて、なかなかの演出ですわ。ネズミと虫と同居なんて、耐えれるかしら。トイレは見られながらですし。
「尋問は専門の方に任せますわ。重罪犯は重罪犯専門の方にね。報告はこまめにあげてくださいね」
耐えれるかしら。重罪犯担当の尋問は、私以上に厳しくて容赦ないですからね。
「畏まりました」
「……どうかしましたか?」
退出しないクラン君に尋ねます。
「実は……賊を捕らえた後、墓地で倒れている不審者を発見しました。上下真っ黒で、焦点が合わない目で笑っていました」
クラン君の視線が、私とスミスに注がれています。
「そう。それで?」
「場所が場所ですし、賊の仲間の可能性が高いので、同じく重罪犯の牢屋に収容しています。念のために医者に診せたのですが、短時間で恐怖を植え付けられたそうで、療養が必要だと。なので、尋問はできません」
私とスミスの反応を伺ってますわね。直接訊いてこない点は好感触です。
「可哀想に。いったい、彼の身に何が起きたのでしょう」
あえて、私は彼と言いました。クラン君なら、それで伝わりと思いますわ。だって、クラン君はわざと発見された者の性別を口にしませんでしたから。私の側近に馬鹿はいりません。
賊を捕らえ、どう対処するか。
報告までが、試験ですからね。追加得点が加算されたようですし、スミスでも合格点を付けるでしょう。よかったですね、クラン君。特別授業は回避できましたわ。
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