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エルヴァン王国の秘宝
第八話 気付かれました
しおりを挟むスミスの提案とクラン君の助言で、砦まで来たのですが……まだ、シオン様には会えておりません。
勘違いなさらないでください。シオン様の居場所がわからないからではありませんわ。シオン様の魔力を記憶していますもの、簡単にわかります。それを追えばいいだけですから。簡単でしょ。
あっ、いましたわ。部下の訓練中ですね。討伐は部下に任せ、後ろに控えてらっしゃるわ。でも、警戒を解いてはいらっしゃいませんね。やっぱり、仕事をする男性の横顔は素敵ですわ。特に愛しているシオン様、最高です。その精悍さに、感嘆の溜め息がでますわ。
「…………あの……セリア様、そんな遠くから鑑賞なさらなくても、よろかしいかと」
侍女の一人が呆れながらも、声を掛けてきます。
「だって、恥ずかしくて……このような髪型、普段はしませんもの……クラン君はああ言ってましたが、シオン様が気に入るかどうかはわからないでしょ。私は可愛い髪型だと思いますわ。でも、シオン様は優しいから、私の気持ちを汲んで気に入った振りをなさると思うの」
だから、勇気が持てなくて、遠く離れた場所からシオン様を見詰めていますの。まぁ、シオン様の働く姿も見たかったですし。
近くに行けば、すぐにシオン様に気付かれてしまいますからね、気付かれない距離を保ちつつ、その凛々しいお姿を鑑賞する。魔力を目に集めれば、一キロ先のお姿もはっきりと見えますわ。ちなみに、今私たちがいるのは大木の上ですわ。
「このまま戻るつもりですね、セリア様」
ズバッと突かれましたわ。一瞬、言葉に詰まります。
「……シオン様も忙しそうですし、仕事の邪魔をしてはいけませんわ」
「それでしたら、心配はいらないようです、セリア様」
そう声を掛けられ、逸していた視線をシオン様に戻します。
「えっ!? この距離で!?」
恐るべし、竜人。
シオン様の目に私たちが映っているかは謎ですが、真っ直ぐ、こちらを見ています。
「行くしかありませんね」
「このまま帰るという選択肢は……ありませんね」
シオン様が微笑んでいます。完全に私だとバレていますね。ここで黙って帰ったら、後でシオン様にお仕置きされてしまいますわ。拗ねたシオン様の相手は、心臓にかなりの負担が掛かりますもの。
「大丈夫です、セリア様。絶対に気に入られます。私が保証いたします」
「ありがとう、励ましてくれて。とても嬉しいですわ」
にっこりと微笑むと、私は侍女と共に、シオン様の元に向かいました。
「……お疲れ様です。あらかた、駆除が終わりましたね」
直視できなくて、視線をシオン様の足元に向けながら、私は皆に労いの言葉を掛けます。やっぱり、私だと気付いていたようですね。部下たちが休憩していますもの。
「…………」
どうしたのでしょう……
いつもなら、シオン様は私を抱き締め、抱き上げるのに、一向にその気配がありません。言葉さえ、掛けてくれません。それが本心なのね。沈みますわ……
「……やっぱり、私には似合わないのですね。こんな可愛らしい髪型は。……仕事の邪魔をしてしまいすみません。帰りますわ」
せっかく、侍女たちが頑張ってくれたのに。作業場にいた皆が、両耳より片耳を出す方が良いって言ってくれたのに。似合ってると言ってくれたのに。
こんな子供体型の、色気が全くない私には似合わなかったのね。
踵を返し、そのまま転移魔法を発動しようとした時でした。
背後から、抱え込まれるように抱き締められました。
「帰らないでくれ……頼む、セリア」
耳元で嘆願するシオン様。
「離してください、シオン様」
「嫌だ!! 離さない」
「まだ、仕事中ですよね。離してください、シオン様」
私がそう言い放つと、シオン様は私を横抱きにしました。焦る私。自然と、間近でシオン様の顔を見詰めることに。
「離したら逃げるだろ。誤解したままで」
そう告げるシオン様の顔は、とても赤くて、クラクラするほどの色気がありました。
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