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エルヴァン王国の秘宝
第五話 番
しおりを挟むお母様の告白はとても重く、信じられない内容でした。しかし、それが真実なのでしょう。
「……ということは、エルヴァン王国の者たちは、我が国を命懸けで救った英雄を裏切り、惨殺し、竜石を取り出したのですか!? あまりにも、恥知らずの行為ではありませんか!?」
興奮した私は、テーブルを両手で叩きそう言い放ちます。
同じ皇族の者として、いや、同じ人間として、如何なる理由があったとしても、それは絶対に犯してはならない行為です。
「そうよね。……セリアの言う通り、恥知らずな行為だわ。でもね、人間らしい行為よね。弱った国を他国や魔物から護るには力が必要だった。二人の犠牲で大勢の民を国を護れる。悪いと思うが、許してくれ。あいつらは、そう言って殺したのよ。それも、最も酷く苦しむやり方でね」
感情のこもらない声でした。それが却って、お母様の胸の内を曝け出していました。ふつふつと湧いてくる怒りを必死で抑え込んでいるように、私には見えました。
「……最も酷く苦しいやり方?」
一瞬、私の頭にある考えが過ります。隣を見ると、シオン様が青い顔をしていました。どうやら、シオン様も、私と同じ考えが浮かんだようです。
「ねぇ、セリア。腐竜が何故生まれるか知ってる?」
お母様の質問は、私とシオン様の考えを肯定するものでした。
「番を失ったからですね」
「半分正解ね。だけど、最も大事な言葉が抜けるわ」
「大事な言葉?」
「番を失った竜は荒れ狂うわ。でもね、腐竜になる確率はまだ少ない。でもね、確実に腐竜にできる方法が一つあるの」
「竜の前で番を殺す方法だな」
代わりに答えたのはシオン様でした。とても苦しげに答えます。まるで、瀕死な状態を思い起こせるほどに。
私は小刻みに震えるシオン様の手に、そっと自分の手を重ねます。私は簡単に殺されたりはしませんわ。
「そう。……シオンも身に沁みてわかると思うけど、竜にとって、唯一の弱点は番よ。番を人質にとられたら、竜は何もできないわ。当然、竜人もね」
シオン様は唇を強く噛み締めています。私はシオン様の頬に手を添え微笑みます。
「シオン様……唇が切れてしまいますわ。私は大丈夫です。私の強さは、シオン様がよくご存ですよね」
「…………セリア……」
シオン様の瞳が揺れています。私は少しでも、不安を取り除きたくて、シオン様の手を強く強く握ります。
しかし、お母様の言葉によって、それは意図も簡単に打ち崩されました。
「あいつらは。一度失敗したの。そして今度は、番を殺さないように周到な準備をした。……セリア、彼女は強かったわ。とても強かった。でも、捕まったの。どうしてだと思う? 一緒に腐竜を倒した仲間が裏切ったからよ。いえ、違うわね。仲間だと思っていたのは私たちだけ。あいつは、始めから仲間だと思ってはいなかった。ただの道具だと思っていたのよ。そして、扱うのは王族である自分。だから、壊すのも自分の勝手だとね」
淡々と吐き出される言葉は、そこにいる全員の心臓を鷲掴みにするほどの衝撃でした。
エルヴァン王国が腐竜を生み出した。
つまりそれは、エルヴァン王国が竜の番を竜の前で殺したということだ。
そして倒し終えると、次は英雄様を標的にしたーー。
英雄様が仲間だからと、竜人であるのを漏らしたのか、それとも、腐竜との戦闘で気付かれたのかはわからない。お母様も話さない。だがそれは、関係ないことだ。
「……英雄様を生贄にしたのですね。その裏切り者は、エルヴァン王国の王子ですか……下衆の極みですね」
「そう。だから私は、腐竜の欠片を封印した魔石と竜石をすり替えたの」
そう告げたお母様は、内容に反してニッコリと微笑んでいました。でも私は、お母様が涙を流しているように見えたのです。
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