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エルヴァン王国の秘宝
第四話 お母様の告白
しおりを挟む「私がすり替えたの。腐竜の欠片を封印した魔石と竜石を」
お茶を飲みながら、お母様は特に表情を変えることなく告げました。
空気が凍り付くっていうのは、まさにこういうことを言うのですね。とてもとても残念な状態であるお父様ですら凍り付きましたわ。そのような中でも、お母様はお茶を飲み、美味しそうにパンを食べています。
「…………どうして? とお訊きしても宜しいですか?」
凍り付いたままでは、先に進みませんから。
「許せなかったのよ。奴らがしたことが。エルヴァン王国が滅んでもいいくらいにね。腐って苦しみながら死んでいく様を見たかったのよ」
お母様が手を止め、私たちを見ます。私はまたしても息を呑みました。悪寒が背筋に走ります。暑くもないのに、額に汗が噴き出します。
お父様もシオン様も、金縛りがあったかのように固まっています。
エルヴァン王国が竜石を保有したのは、私が生まれる遥か遥か昔の話です。かなりの月日が流れたのに、その瞳の奥には、まだ怒りの炎が鎮火せず燃えていました。怒りを持続することは難しい。なのにーー。
エルヴァン王国は〈黒炎の魔女〉をここまで本気で怒らすようなことをした。
いったい、何をーー。
「聞きましょう。何があったのかを」
「長くなるわよ」
お母様は溜め息を吐きながら言います。
「構いません」
「大丈夫だ」
「俺が知らない、セイラを知りたい」
こういう時でさえ、お父様はお父様でした。正直、我が親ながら気持ち悪いですが、ここは我慢しましょう。でも、お母様は我慢できなかったようですね。死んだ魚のような目になっていますわ。
「お母様、お父様は無視して、話の続きを」
お父様、煩いですわ。
「……そうね。これは、セリアにもシオンにも関節的に関わってることだし、いいわ、話してあげる」
私とシオン様が?
話が長くなるということで、スミスがお茶とデザートをどこからか持ってきました。
「……セリアたちは、エルヴァン王国が竜石を得た経緯を、どのように聞いてるの?」
「確か、民を虐げ、国を壊滅にまで追いやった邪竜を、エルヴァン王国の王子が伝説の剣で、仲間と共に倒したとーー」
最後まで言葉にする前に、お母様が「違うわ」と厳しく険しい声で否定しました。
「どう違うんだ?」
お父様が尋ねます。
「そもそも、邪竜なんて存在しないのよ」
「どういうことです?」
「……あれは、私がまだ、この世界に来て間もない頃だったわ…………」
懐かしさと、そして悲しみが混じったような目で、お母様はポツリポツリと話し始めました。
「魔法が存在しない世界にいた私が、膨大な魔力量を保有する。それは戸惑いと混乱しかなかった。そんな私に魔力の使い方を根気よく教えてくれたのが、セリアのお祖父様、白竜の息子と番の魔道士だったの。二人に出会わなかったら、私は間違いなく狂ってたわね……」
私とシオン様の目が驚きで丸くなります。
私はあの花畑の光景を思い出していました。シオン様もでしょう。
番を愛しそうに抱え込みながら石化した、一頭の竜の姿を。その側には、一刀の剣が刺さっていた。
「まさか、その剣が……邪竜を倒した伝説の剣?」
考えるより、先に声として出ていました。
「相変わらず、察しがいいわね、セリアは」
苦笑しながら、お母様は肯定します。
「そうよ。エルヴァン王国が邪竜を倒したという、伝説の剣は、今シオンが持っているドラゴンキラーよ」
お母様は一旦言葉を切ります。スミスが用意したお茶を一口飲んでから、ゆっくりと口を開きました。
「そして、エルヴァン王国の奴らが邪竜と称しているのは、エルヴァン王国を腐竜から救った英雄、私の最大の恩人。そこまで言えば、誰かわかるわね」
お母様の告白に、誰も口を開けませんでした。
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