婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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エルヴァン王国の秘宝

第三話 竜石

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 詰めが甘かったのかと反省していると、お母様が何故か、残念な子を見るような目で見ているのに気付きました。

「……十六歳の女の子が言う台詞じゃないわ」

「そうですか?」

「小さくて、美人で可愛らしいのに、その口から出てくる台詞は、まるで暗躍する悪役のよう。それが様になってるから、なお悲しいわ」

「暗躍する悪役のようですか……最高の褒め言葉ですわね」

「褒めてないわよ!!」

 そうですか? 私的にはかなりの褒め言葉なのですが。小さくては余計ですが。

「まぁでも、詰めが甘かった点は、暗躍する悪役としてはまだまだ勉強不足ですわね」

 フーと溜め息を吐きます。

「本気でそう言ってるのが、母親としては悲しいわね。だけど、今回はセリアの詰めの甘さは関係ないわ」

「というと?」

 いったい、誰が私を狙うのでしょう。

 皇女である私を狙うということは、かなりのデメリットがあると思うのですが。それを考慮したうえで、私を狙うのなら、よほどなことが現在進行形で起きていると考えなければなりません。

「シスターを狙ったのは、エルヴァン王国の手の者よ」

 またしても、意外な名前が出てきましたわ。

「エルヴァン王国? 第一王子の一派ですか?」

 第二王子から、私はケルヴァン殿下の身の安全を託されています。その方が、私を狙うとは考えたくはありませんわ。

 でも、絶対とはいえませんよね。もし、シスターを襲ったのが第二王子の一派なら、何か理由がありそうですわね。なんにせよ、エルヴァン王国が大きな岐路に立っていることは、まず間違いないでしょう。

 ならば、隣国として、情報を収集する必要がありますわね。今以上に。

「軟弱な奴らが多かったから、おそらくそうじゃない」

 お母様の基準で軟弱者って、ほぼ大半の者が当てはまるのでは。

「エルヴァン王国がきな臭いのはわかったが、それとセリアがどう繋がるんだ?」

 ずっと黙って、私とお母様の会話を聞いていたシオン様が質問してきました。プライベートなので、砕けた口調で。

「お父様、いい加減、復活してくださいまし。重要な話をしているのですよ」

 溜め息を吐くと、話の途中ですが、まだショックを引きずっているお父様に、私は軽く叱責します。

「…………うるさい」

 完全に拗ねてませんか? 

「「いい年した男がみっともない」」

 キレイにハモりましたわ。お母様と。

 お父様はさらにショックを受け、またしてもその場に崩れ落ちます。

 本当に、お母様が絡むと途端に駄目になりますね。これが、一国の皇帝とは。これで、賢王と名高いのですから。皇国のためにも、この顔は絶対に知られてはいけませんね。

「ジルのエルヴァン王国の秘宝って何か知ってる?」

 お父様を無視したお母様が答えます。

「それなら聞いたことがある。竜石だったな」

「私も聞いたことがありますわ。結構有名ですよね。見たことはありませんが」

 同じようにお父様を無視し、シオン様と私は答えます。

 確か……邪竜を倒した後、その体から魔石を取り出し封印したと聞いております。その魔石自体、かなりの力を秘めているとか……

 そこまで考えて、ふと、ある考えが頭を過りました。

「ま、まさか!! シスターを生贄にして、魔石の、竜の力を引き出そうとしているのですか!?」

 思わず立ち上がり、お母様に詰め寄ります。

 それなら、シスターを狙った理由が理解できます。彼女は落人。お母様の足元には及びませんが、魔力量はかなり多かった。それは、黒髪からもわかります。

 そして、私もお母様の色を引き継いでいます。

「さすが、私の愛娘。察しがいいわね。でもね、半分当たりで、半分ハズレ」

「どういう意味です?」

「そもそも、エルヴァン王国の秘宝は竜石ではないの。あれは、腐竜の欠片を封印した魔石よ」

「えぇ!?」

「「どういうことだ!?」」

 さらりととんでもないことを言ってくれましたね、お母様。竜石よりさらに悪いじゃないですか!!

 腐竜の欠片なんてーー

 開放されたら……

 そこは、死の大地に変貌する。

 生物全てが生きることができない汚染された不毛の地にーー



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