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エルヴァン王国の秘宝

第一話 お仕置きですわ

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「私は、シオン様と二人っきりで朝食をとりたいのですが……」

 何故、お母様がいるのです。それも、何故シオン様の隣に座ってるのです。何故、シオン様のパンをちぎってあげてるのです。
 
「あら、私がいたら駄目なの? 可愛い私の娘も成長したわね。母親よりも男をとるなんて。はい、シオン、あ~ん」

 ボキッ。

 金属製のスプーンがありえない音をたて折れ、派手な音をたてテーブルに落ちます。すかさず、スミスが新しいスプーンを私の手にのせます。

「セリア、スプーンを落としちゃ駄目よ」

 ボキッ。

 そうですか、そうですか。お母様、本気で私を怒らせたいようですね。お母様にとって、いつもの気晴らしかもしれませんが、今回はやりすぎましたわ。お母様とはいえ、仕置きが必要ですわね。

「わかりましたわ、お母様。お母様がその気なら、私にも考えがありますわ」

 そう告げると、指をパチッと鳴らします。

 すると、途端に顔色が悪くなるお母様。慌てて立ち上がります。

 さすがですわね、お母様。でももう、遅いですわ。

「食事中に立ち上がるのはマナー違反だよ、セイラ」

「ヒッ!! ジル!!」

 お父様が後ろからお母様を抱き締めます。我が父ながら、怖いですわ。

「セリア!! 裏切ったわね!!」

 お母様が、お父様の腕の中で怒鳴ります。

「人聞きの悪いことを言わないでくださいまし。裏切ってませんわ。ちょっと苛立って、魔力の制御ができなかっただけですわ。だから、結界は大丈夫でしょ」

 私がしたのは、お母様の結界にほんの少し内側から穴を開けただけですわ。それもわずか数秒。なのに、この場に当然のように姿をみせるお父様。血をわけた実の父親ですが、その執着と粘着さに、内心、かなり引いてますわ。繰り返しますが、正直怖いです。

「セイラ、やっと捕まえた。ゆっくり話し合おう。セリア、シオン邪魔したな」

 もの凄く良い笑顔ですわね、お父様。だけど、

「二人っきりになるのは早いですわ、お父様」

 私がそう告げた途端、ストンと表情がなくなるお父様。わずかに、魔力が全身から漏れ出ます。

「邪魔をするのか?」

「不機嫌さを隠そうとはしませんね、お父様。そういうところが、お母様の怒りをかってるのだと学習してくださいな」

 遅かったですわね。お母様が睨み付けてますもの。今更、青い顔をしても遅いですわ。

「こ、これは違う、俺はセリアを可愛い娘だと、心から思っている!! 嘘じゃないからな!!」

 言えば言うほど、嘘っぽくなるのは、日頃のお父様の人格のせいですわね。非常に残念ですわ。これでも、賢王として諸国に名を轟かせているのだから驚きですわ。まぁ実際、賢王だと思いますわ。人格と政治能力は別物ですわね。

「……お母様も、お父様がそういう方だと諦めてくださいませ。確かに、性格には難がありますが、お父様は私を愛してくれてますわ。その気持ちを疑ったことはありません」

「セリア……」

 なんとも言えない表情で、お母様はポツリと呟きます。お父様は憮然とした表情ですわね。嘘は言ってませんわ。

「ところでお母様、そろそろ話してくれませんか? 私のところに来た理由を」

「……何を言ってるの?」

 とぼけるつもりですか。通用しませんわ。だってお母様って、根はとても素直なんですもの。

「人目を気にしているのなら、大丈夫ですわ。この食堂には私たちしかいません。念のために〈遮音結界〉を張ってますから、会話は外には漏れませんわ。安心してください」

 一本目のスプーンを折った時点で、食堂内は私たちだけになりました。そうでなければ、お母様のことをお母様とは呼びませんわ。ましてや、お父様も呼びませんでした。

「……言ってる意味がわからないわ」

 まだとぼけるのですね。ならば、鎌を掛けてみますか。

「お母様はお父様とは違い、最低限の礼儀を慮る方です。そのお母様が、夜もふけた時間帯に私の所にくるのはおかしいでしょ。それに、私とシオン様に付き纏うのもおかしい。理由があるのでしょう?」

「そうなのか? セイラ」

 お父様が尋ねます。シオン様もお母様から視線を外しません。

「単刀直入にお尋ねします。私が誰かに狙われているのですか?」



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