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裁判が始まりました

第十三話 刺激が強過ぎますわ

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 何度か、地雷を踏んだことがありますが、今回は明らかに規模が違いましたわ。

 様相が違いますから、自然と規模も違うのだと思いますが……それを抜きにしても、シオン様の怒りと不機嫌さは、私が言葉を失うほどでしたわ。だからといって、嫌いになったりはしません。離れたりしませんわ。

 ただ……竜人の底知れぬ執着心を垣間見たというか……闇を見たというか……まぁ、そういうことですわ。

「……シオン様、いい加減下ろしてもらえませんか?」

 自然と声がうんざりしたものになります。

 今日で一週間。

 クニール様とのお茶会を強制終了されたその日から、私はシオン様に抱っこされています。さすがに、シオン様とのプライベートな時間だけですけどね。大人しく抱っこされていないと、監禁されそうな勢いでしたわ。ほんとに大袈裟ではなく……

「嫌だ」

 でしょうね。この問答、何回目かしら……埒があきませんね。

 そもそも、私が何かしましたか?

 私に対し好意があったとはいえ、いくら腹黒で性癖に多少難があったとしても、優秀なら、欲しいと思うのは罪でしょうか?

 優秀な人材は宝ですわ。

 お金は使えばなくなりますが、優秀な人材は消耗品ではありませんもの。お金のように、使って減ることはありませんわ。反対に、スキルが向上するのではなくて。

 触られそうになったのは、確かに私に隙があったからかもしれませんが、だとしても、ずっとこの調子では、私の気が休まりませんわ。だってそうでしょ。愛している方と長時間密着し続けるのって、そのう……色々と緊張してしまうのです。なので、ややキツめの口調で再度繰り返しました。

「もう一度言います。シオン様、いい加減下ろしてください」

「…………断る」

 少し間が空いてから、シオン様は苦しげな声で拒否します。

 私が本気で止めて欲しいと願っていることに、気付かないシオン様ではありません。それでも、拒否するのは竜人の性なのでしょう。言葉を発するまでの間が、シオン様なりの葛藤なのだと思います。

 本当に、竜人とは厄介な生き物ですね……

 しみじみとそう思っていると、聞き慣れた声が突如降ってきた。

「あんまりしつこい男は嫌われるわよ、シオン」

「お母様!!」

 お母様はドアから入るってことを知らないのかしら。娘と婚約者のプライベート空間にノックもせずに毎回入って来ます。

「いいじゃないの。娘なんだし」

「娘だからって、最低限の礼儀はありますわ」

 お母様もお父様と仲良いところを見られたくはないでしょ。今は離婚してますが。

「もう、怒らないで、セリア」

「次からは、ドアをノックしてくださいませ」

「え~~面倒くさい」

「お母様」

「わかったわよ」

 渋々納得してくれましたが、いつまで続くやら。二、三回で終了しそうですね。

 そんなやり取りをしている間も、私はシオン様の抱っこされたままですわ。逃げないように、腰に回った腕に力がはいってます。実の親に、このような場面を見られるのは、やっぱり恥ずかしいですわ。

 シオン様も恥ずかしいですよね。だから、さっきから黙ったままで……シオン様?

「…………嫌われる? セリアは俺を嫌うのか?」

 私を抱えたまま、シュンとするシオン様。違いましたね。

「このままだと、嫌われるかもね」

 お母様が言葉がグサグサとシオン様に突き刺さってますわ。

 比例して、抱き締める腕が強くなります。そっ、そんなに強く抱いたら、シオン様のお顔が……わ、私の胸にーー

「セリア? 大丈夫? 顔が真っ赤だけど」

 お母様の声が遠くで聞こえますわ。

 風呂上がりのせいで、薄着だったのが余計に拍車を掛けたようです。刺激が強過ぎますわ……

「シオン!! セリアを離して!!」

 慌てるお母様。

「セリア!? 大丈夫か!! 医者を呼ばないと!!」

 取り乱しているシオン様。

「その前に離しなさい!!」

 お母様の叱責する声と同時に、ドカッという音がしました。

 賑やかですね……

「「セリア!!」」

 名前を呼ばれたような……返事をしたいのに、声が出ませんわ。目の前がクシャと歪みます。魔力の使い過ぎでも、魔物と死闘したわけでもないのに。さすが、シオン様ですわ。動作一つで私をここまで追い込むなんて……次は、私が追い込んでみせますわ。
 
 
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