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裁判が始まりました
第九話 やっと終わりましたわ
しおりを挟む己の過ちに打ちひしがれているのか、ただたんに、これから先の未来を悲観しているのか、私的には九割後者だと思いますが。だとしても、膝を付き、頭を垂れている様は、もはや私の敵ではありませんわね。元から、力不足でしたけど。
「お父様!! お母様!! しっかりして!! 惑わされないで。あんな性悪に負けないで」
勝負は完全についたというのに、必死で、そう励ますセリーヌ様。滑稽でしかありませんわ。それとも、まだ巻き返しが可能だとお考えなのでしょうか? 言葉を無視したら、健気な娘に見えますわね。
とはいえ、性悪って……まぁ、性格は良い方ではありませんね。皇女でなくても、他者に対し使用していい言葉ではありませんわ。常識でしょう。
最愛の娘の励ましを受けても、ゴードン伯爵夫妻は項垂れたまま。そんな両親を見てセリーヌ様は、顔を上げ、私をキッと睨み付けます。憎々しさを隠そうとはしていませんわ。そして、
「許さない。絶対、許さない。私の幸せを奪ったあんたを許さない」
低い声で言い放ちます。
これはもう呪詛ですわね。
呪詛を言い放った後、表情を全く変えない私に苛立ち、セリーヌ様は拳を振り上げます。
この私を殴るつもりなのかしら?
想像した通り、セリーヌ様は手を振り上げたまま突進して来ましたわ。魔猪のように。
現行犯ですわね。
盛大に自滅してくださり感謝いたしますわ。気を付けないと、笑みが溢れそうになりますね。
セリーヌ様は大変甘やかされて育ったようですから、感情を抑えることが苦手なようです。これもお花畑の方々と一緒ですわね。貴族令嬢としては失格ですが。
故に、このような幼稚な態度となったのでしょう。それにしても、魔物討伐の最前線にいる私に届くと思っているのかしら。何も考えていないのでしょうね。そもそも、考える頭を持ち合わせていないのでしょう。お可哀そうに。ここは優しく対処いたしましょう。
そう思っていたのに、数歩進んだだけでセリーヌ様は止まりましたわ。真っ青な顔でカタカタと震えてます。あ~クニール様の威圧で動けなくなったのですね。これは面白いですわ。文官のような容姿でこの威圧、できますわね。公爵家の嫡子でなければ欲しいくらいですわ。少し変わった性癖らしいですが。それにしても、かなりの実戦経験を積んでこられたのね。
「クニール様。そのへんで、お止めになって。床が汚れてしまいますわ」
掃除する方が可哀相ですからね。それにこの場は、司法を携わる方にとっては聖地ですからね。
「そうですね。少々、やり過ぎましたか」
これっぽっちも、やり過ぎたとは思っていないくせに。おくびにも出しませんね。なかなか、腹黒な方ですわ。そういうの嫌いではありませんわ。
「いいえ。庇ってくださり、ありがとうございます、クニール様」
「女性を庇うのは男の役目です、セリア皇女殿下」
社交辞令と理解していますが、女性扱いされたのは少し嬉しいですわね。私の周りで女性扱いをするのは、シオン様ぐらいですもの。それも婚約者になってからですわ。まぁ、魔物討伐の最前線でそれもどうかと思いますけど。本当、女心は微妙ですわね。
そんな私をよそに、セリーヌ様は腰を抜かし座り込んでいる。
止めは私が刺したかったわ。残念ですが、仕方ありませんわね。セリーヌ様がやっと静かになったのを見て、ゴンと木槌が鳴った。全員の視線が裁判官に集まります。
「これにて、結審する。セリア皇女殿下の訴えを全面に認め、ゴードン伯爵家及びゴードン嬢はセリア皇女殿下に対し、それぞれ賠償金を支払うことを命ずる。なお、これより先は、刑事裁判に移行するため、ゴードン伯爵夫妻、ゴードン嬢を平民牢へと収監する。これによって、ゴードン伯爵の貴族籍を一時的に凍結する」
そう通る声で裁判官は告げると、再度木槌を打った。
それを合図に、待ち構えていた騎士はゴードン伯爵夫妻とセリーヌ様を無理矢理立たせ、半ば引きずるように平民牢へと連行した。
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