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裁判が始まりました

第六話 淑女教育が無になりかけました

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 裁判官から名指しで許可を求められているのに、セリーヌ様は首を傾げています。

 何故、首を傾げているのかしら? まさか……

 まじまじと凝視する私の前で、セリーヌ様は裁判官の問い掛けに答えず、ポカンとしていらっしゃいますわ。

 本当に公用語が話せないの!? 嘘でしょ!!

 思わず、叫びそうになりましたわ。なんとかグッと我慢しましたが、唖然としましたわ。長年学んできた淑女教育が無になりかけましたよ。それほどの威力ですわ。

 その間も、セリーヌ様は間抜け面を晒し続けていました。その両側にいる御両親は、真っ青な顔でオロオロとし焦ってますわ。焦るくらいなら、公用語の勉強をさせるべきでしたわね。可愛がるだけでなく。これも一種の育児放棄といえますわね。今更ですけど。

 彼らの様を見て、ますますクニール様の証言に信憑性が増しますわね。初めは信じられませんでしたが。これ、完全に黒でしょ。

 今だに信じられませんが、どうやら、セリーヌ様は公用語が話せないようです。勉強ができるできない以前の問題ですわ。マナー教育もね。

 この大陸全土での共通用語、それが公用語です。大国の言語ではなく、独立した言語ですわ。

 他国を挟んで貿易する商人や、外交の場では、公用語が主ですね。ちなみに、学園は全て公用語ですわ。日常会話もね。留学生が多いからでしょう。

 なので必然的に、他国の人が多い場所ほど公用語が行き交います。王都がその代表格ですわね。そのせいか、王都に住む方は、母国語を習得するよりも早く公用語を習得していますわね。商人や旅行者など多く訪れますから。下手したら、母国語よりも使われているのでは。自然と耳にする機会が多いのでしょうから。幼児でも片言ですが、公用語を話しますよ。

『…………よく、今まで暮らしていけましたわね』

 思わず、声にして呟いてしまいましたわ。もちろん、公用語で。

『公用語を使わなくても、言葉は通じますから』

 答えたのは、クニール様でした。苦笑しながら。

 まぁ確かに、母国語が使えたら通じますわね。皇国内でしたら。中には、母国語にこだわりを持ち、大事に思う方々もいらっしゃいますから、特に不審がられることはありませんわね。

『……そうですね。ところで、クニール様にお訊きしたいのですが、学院内は公用語ではありませんの?』

 疑問に思い尋ねます。クニール様はとても良い笑顔で答えてくれましたわ。視線が痛いほど突き刺さりますが。特に背後と真横から。

『授業は全て母国語で行われています。普段の会話は半々ですね。公用語の授業は週に一度、特に試験はありません。入学前にマスターしているのが当たり前ですから、あえて取り入れていないのでしょう』

 なるほど。

 実際は入学前でも遅いくらいですけどね。マスターしていて当然だから、あえて省き、別の授業を行う。その考え方は共感できますわ。

 母国語しかできないセリーヌ様が違和感をもたれなかったのは、常識が裏目にでたからですわね。試験があれば、発覚したでしょうけど。

『つまり、婚約解消の原ーー』

 私とクニール様の会話が途切れたタイミングでした。裁判官が婚約解消の原因はセリーヌ様側にあることを告げる最中、母国語で遮る声が邪魔をします。当然、誰かわかりますよね。

「なっ、なに、見詰め合ってるのよ!! やっぱり、私がいながら浮気していたのね!! おかしいと思ってたのよ!! 少しは格好いいからって、おじさんと婚約するなんて。おじさんを隠れ蓑にして、本当はレイモンド様とイチャイチャするつもりね!! この尻軽女!!」

 皇女である私を指差し、ヒステリックに罵倒するセリーヌ様。

 控えていた騎士が動くが、私はそれを手で制し止めます。

 おかしいですわね。とても怒っているのに、笑みが浮かびますわ。「ヒッ!!」って悲鳴をあげるなんて、失礼ですよ、セリーヌ様。

「裁判官、宜しいでしょうか?」

 母国語で、裁判官に発言の許可を求めます。そうでないと伝わりませんからね。

「構いません。許可します」

 とても良い笑顔で、裁判官は許可をくれました。

 さぁ、始めますよ。

「ありがとうございます、裁判官。……セリーヌ様、貴女の目は腐りきってますのね。クニール様と見詰め合っていた? おかしなことを。私たちの会話は、この場にいる全員が聞いてますわ。そのような雰囲気は皆無でしょ。……ところでセリーヌ様、シオン様のことを何とおっしゃいました? 聞き間違いでしょうか? 確か、おじさんって言いましたよね。少しは格好いい……違いますわ。シオン様はとてもとても格好いいのです!! 言葉に仕切れないくらい格好いいのです!! まぁ、常識皆無の貴女では、その魅力の一片もわからないでしょうけどね」

 ますます、笑みが深くなりますわ。

 あら、震えても許しはしませんよ。



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