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裁判が始まりました
第五話 さらに酷かった
しおりを挟む「クニール様。つまり、性格の不一致の他に理由があると?」
裁判官がさらに問うのも無理はありませんわね。含みを持たせているとはいえ、聞きようによってはそう聞こえますもの。事実、私にはそう聞こえましたわ。大半がそうでしょう。
とはいえ、この段階ですでに、私とクニール様との不貞疑惑はほぼ否定されております。もちろん、提出した書類が大きかったでしょう。信じる方は少ないでしょうね。セリーヌ様たちは今だに頑なに信じてますけど。
それはさておき、不貞の噂を完全に一掃するためには、是非、理由をクニール様の口から直に聞きたいですわ。
「はい。……ただこのことは、できれば誰にも知られなくはありませんでした。クニール家だけでなく、ゴードン伯爵家の醜聞になりますから」
少し悲痛な表情をするクニール様。
焦らしますね。今でも大概、公衆の面前で醜聞を晒しているのに、これ以上の醜聞ってありますの!? 想像できませんわ。もしかして、実際に不貞をしていたのはセリーヌ様の方なのかしら? だとしたら、クニール様が庇う理由はありませんよね。性格の不一致ではなく、セリーヌ様の不貞が原因だと届ければいいのだし。これが逆の立場なら、まだ話はわかりますけどね。
「嘘よ!! 理由なんて聞いてないわ!! 農民に嫁げって、言われただけよ!!」
農民に嫁げ? 平民全般ではなく農民? あまりにも具体的ですわね。
「そうだ!! 一人娘のセリーヌを馬鹿にして、公爵家だからといって、何でも思い通りになると思っているのか!!」
「セリーヌが可哀想過ぎますわ!!」
まぁ一応、これでも伯爵家の娘ですからね、それが事実なら酷い話ですが。そう言わざるえない理由があったように思えるのです。
「農民に嫁げとは言ってはいませんよ。私が言ったのは、このままだと、農民にさえ嫁げなくなると言ったのです」
さらに酷かった。
傍聴席が少しざわつきます。
クニール様は、呆れと冷めた目で彼らを見ながら訂正します。
「農民にさえ……さしつかえがなければ、理由を教えて頂けますか?」
裁判官が尋ねます。
「構いません。ここまできたら、致し方ありません」
そこで一旦言葉を切り、はっきりとした口調で答えました。
「セリーヌ・ゴードン嬢は公用語が話せないのです」
えっ!? 公用語が話せない……? いやいや、それはさすがにないでしょ。だって、公用語は……貴族はもちろん、平民の大半が話せますよ。それこそ、農民でさえも。
つまりそれが事実なら、クニール様はセリーヌ様を農民以下だと遠回しに仰ったことになりますね。ゴードン伯爵家の皆様は気付いていませんが。
でもまさか、公用語が話せないなんてあるのでしょうか? 今まで多数のお花畑の方がたと対峙してきましたが、公用語を話せない方はいませんでしたわ。
クニール様とゴードン伯爵家以外は、その発言の意味が理解できずに、ただただ戸惑いしかありませんでした。反応ができずに固まります。当然でしょう。クニール様の発言は、それほど衝撃的なものなのですから。
衝撃を受けたのは裁判官も同じでしたが、ある程度免疫があるのでしょう。すぐに復活しましたわ。
「…………今、公用語が話せない、と言われましたか?」
再度確認します。
「はい。セリーヌ・ゴードン嬢は公用語が話せません。そのような女性に、公爵夫人は務まりますでしょうか。マナー以前の問題です」
そこまで断言されるのなら、そうなのでしょう。信じられませんが。
「確かに、それが事実なら……」
常に表情を変えない裁判官も、さすがに困ってらっしゃいますわ。
「驚くことに、事実です。学院に通っていて、何故そのようなことが起こるのか、私にも理解ができません。ですが、事実です。そのような女性を婚約者に一度してしまったのは、クニール公爵家にとっては汚点。なので、婚約者だった私が被ることにしたのです。不貞の噂を払拭しなかった理由はそこにあります。もしお疑いならば、ここから先の裁判は、母国語ではなく公用語でなさってはどうでしょうか?」
確かに、それが一番手っ取り早いですわね。
『では、ここから先は、公用語での裁判に切り換える。宜しいか? ゴードン嬢』
裁判官は公用語で、そうセリーヌ様に問い掛けました。
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