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裁判が始まりました
第三話 安物の鍍金ですわね
しおりを挟む私からの提案が裁判官に認められ、ゴードン伯爵家の皆様は、事務官に中に入るよう促されていますわ。
逃げ出す気満々でしたのにね。外堀を完全に埋められて、逃げ出すことは到底不可能。もうそろそろ諦めて、さっさと席に着いてほしいですわ。
裁判官も、とうとう痺れを切らしたみたい。裁判官の無言の視線に答えるように、騎士がゴードン伯爵の腕を掴み強引に引っ張り中にいれた。芋づる式に夫人もセリーヌ様も中に入る。
あ~これで、やっと裁判が始まりますわ。
「さっさと座りたまえ」
裁判官の言葉に渋々座る、ゴードン伯爵家の方々。
「…………やっと座ったか……さて、裁判を開廷する前に、何か言うことはないか」
被告席に座る三人に視線を向け、裁判官は問い掛けた。シーンと静まり返る中、裁判官の厳しい声が響きます。
「「「…………」」」
無理矢理座らされたことによる反感か、無言を貫く御三方。でも、その目は雄弁に語ってますわ。不平不満ありありですわね。ご自身がどれほど醜態を晒しているか理解されていない。
その中でも、セリーヌ様は、まるで私を親の仇のような憎々しい目で睨み付けています。
それに反応して、背後から殺気と冷気が、私の背中を撫でていきます。
ん? 私の横からも冷気が……
それとなく視線を向けると、殺気を放っていたのはクニール公爵の嫡男、レイモンド様でした。セリーヌ様の元婚約者ですわね。
お父様曰く、婚約破棄の原因は、表向き性格の不一致、その実、レイモンド様の不貞だと仰っていましたが……どこかしっくりときませんわね。
セリーヌ様があまりにも酷過ぎるのも疑問の一つの要因ですが……。そもそも、私が相手だっていうこと事態がおかしな話なんですけど。お父様もシオン様も、クニール様は危ない方だからあり得ると仰っていましたが、それにしては、目が濁っているようには見えないのです。放つ殺気も、以前感じた、気持ち悪いネトッとしたものは感じません。
まぁ、どういう人物かは、追々わかることでしょう。婚約破棄の真意も。それよりも、今は始まろうとしている裁判に集中しなければいけませんね。足元を掬われることも、万が一あるかもしれませんし。
「遅刻して謝罪一つないのか、ゴードン伯爵。……わかった。無駄話は止めて裁判をさっさと始めてほしいのだろう。ーーでは、只今より、セリア皇女殿下に対しての名誉毀損及び傷害についての裁判を始める。セリーヌ・ゴードン嬢、証言台へ」
そう裁判官に促されても立ち上がらずに、セリーヌ嬢は体を震わせ伯爵と夫人に縋りついています。
とことん、自分が被害者、か弱い令嬢だと皆に見せ付けたいようですけど、それが通用するのは被告席に座る家族だけですわ。私を含め、傍聴席に座る方々も、その様を冷めた目で見ていますもの。
「セリーヌ・ゴードン嬢、証言台へ」
裁判官が再度繰り返しますが、頑としてセリーヌ様は動きません。代わりに、何かブツブツと呟いていらっしゃいますわ。ある意味、肝が据わってらっしゃる方よね。
遅々として進まない裁判に、とうとう裁判官は根を上げたようです。そうですわね。悠長に付き合ってたら、絶対、今日中に裁判が終わりはしませんもの。
裁判官は了承を得るように、私に視線を向けます。私は軽く頷きました。
「……仕方ない。そのままで構わない。但し、質疑には答えるように。もし答えなければ、裁判侮辱罪で牢屋に入ってもらう。よいな」
裁判官が苦肉の策として特例を認めたのに、セリーヌ様は「酷い!!」と叫び、ぽろぽろと泣き出す始末。当然、全員無視ですわ。
「まず始めに、ゴードン嬢、貴女はセリア皇女殿下に対し、〈そのピアスは本当に、コンフォ伯爵からのプレゼントか〉と、尋ねましたか?」
「……尋ねたわよ。それが悪いことなの。不貞をしているのに、どうして私が責められるの……理不尽だわ。皇女殿下だから、何をしても許されるの。酷過ぎるわ」
相変わらず、完全に私が不貞をしているかような言い方ですね。反論したいが、勝手に口を開くわけにはいきません。グッと我慢します。
「ゴードン嬢、はいか、いいえで答えるように。では、セリア皇女殿下にお訊きします」
「はい」
「ゴードン嬢に話す許可を与えましたか?」
まず、そこを一番に確認しますわね。
「いいえ。そもそも、同席することを認めておりませんし、挨拶すらもありませんでした」
「つまり、挨拶もなしに、いきなりそう訊かれたと?」
「はい。皇太子妃殿下と話している途中に、いきなりですわ」
手元の書類と私の証言を照らし合わせる裁判官。顔を上げると、セリーヌ様に視線を向け尋ねます。
「ゴードン嬢、セリア皇女殿下の証言に間違いありませんか?」
それを聞いた途端、セリーヌ様は勢いよく立ち上がり叫んだの。
「さっきから聞いてれば、まるで私が全部悪いような言い方だわ!! そもそも、不貞をして、私からレイモンド様を奪った皇女殿下が悪いのよ!!」
さっきまでの病人設定はどこにいったのかしら? まだ、そんなに時間が経っていないのに剥がれてしまうなんて、かなり安物の鍍金ですわね。
「と、ゴードン嬢は発言していますが、セリア皇女殿下、クニール公爵子息レイモンド様と不貞を犯しましたか?」
「いいえ。犯しておりません。神官様の前でゼリアス神に誓えますわ」
真っ直ぐ裁判官を見据え、私は告げます。傍聴席がざわ付きます。
「静粛に。ゼリアス神に誓うと?」
「はい」
神官の前で守護神であるゼリアス神に誓うーー。それは、命を掛けると同義語ですわ。何故なら、嘘を吐いたら、ゼリアス神の呪いを受けますからね。嘘の大きさによりますが。
つまり私は、命を掛けて、不貞はしていないと訴えた。
「嘘よ!!」
セリーヌ様が叫ぶ。
「嘘ではありませんわ」
「なら、レイモンド様に訊けばいいわ!! だって、レイモンド様は仰ったもの、初恋の人が忘れられないって!! 二十歳以上、年が離れたおじさんなんて、隠れ蓑に決まってるじゃない!!」
今、何て仰りました? 聞き間違いではありませんよね。
「……シオン様がおじさん? あの男らしく凛々しくて、格好いいシオン様が!? ……いいでしょう。ならば直接、クニール様にお伺いすればいいのでは。裁判官、クニール様の発言をお許しくださいませ」
私は裁判官に頭を下げ嘆願します。
シオン様をおじさんと言ったことを後悔させてやらりますわ。
「クニール様が許可なさるのなら、こちら側には異存はありません。如何なさいますか、クニール様」
裁判官はクニール様に尋ねます。
「構いません。この場で、正直に証言致しましょう」
口元に笑みを浮かべながら、クニール様は立ち上がった。そして証言台に立ったのです。
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