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裁判が始まりました
第二話 茶番は終わりにしませんか
しおりを挟むゴードン伯爵家の皆様は、まだ文句を垂れていますわね。対象者が姿を消しているのに。まるで、大きな独り言ですわ。自分たちが注目されていることに気付いていないようですわね。まぁ注目といっても、その視線は明らかに嫌悪、蔑みですけど。
さすがの裁判官も、この様には思うところがあるのでしょう。眉間に皺を寄せてらっしゃいますわ。裁判官と書記官は、今一度席に戻り一礼すると着席します。
この時点で、かなり裁判官の印象が悪くなってますわね。
その間に、ゴードン伯爵家の皆様は事務官に案内されて移動します。当然、伯爵と伯爵夫人は傍聴席に、セリーヌ様は私の向かいにある席に案内される筈なのですが、そこでもひと悶着がありました。
「何故、私一人なのですか!?」
「何故!、私がこの席なんだ!?」
「そうですわ!! 私たちもそちらに、いえ、そもそもどうして、罪人のような扱いを受けなくてはいけないのですか!?」
三人三様の台詞ですわね。共通しているのは、ヒステリックな点でしょうか。
「訴えられたのは、ゴードン伯爵令嬢様です。なので、ここから先はゴードン伯爵令嬢様のみの立ち入りとなります」
喚いている相手に事務官は淡々と述べていますが、かなり我慢しているのがわかりますわ。語尾が段々強くなっていますから。感情でものを言っている方に、常識や決まりごとを諭しても、虚しいのは身に沁みて知っていますからね、心底事務官に同情しますわ。
傍聴席に座る方々は、完全に引いてますわね。彼らの心象も最悪でしょう。若干、一名を除いて。周囲の状況を冷静に観察していると、
ゴン!!
木槌を打ち付ける大きな音がしました。
さっきまでの騒ぎが嘘のように、静まり返る室内。
「静かに!! これ以上の騒ぎは許さぬ。もし騒ぐのなら、裁判侮辱罪で拘束、留置するがよいか」
裁判官の台詞に反論しようとしたが、裁判官に睨み付けられて押し黙る。完全に迫力負けですわね。
「では、ゴードン伯爵令嬢様、お入りください」
「…………」
事務官に再度促されても入ろうとはしない、セリーヌ様。ついには、立ちくらみを起こした振りをする始末。
事務官は手を貸さない。
あれだけ感情的に金切り声を上げていて、すぐにか弱い振りをしても、いったい誰が信じるのでしょう。信じているのは、ご両親だけですわね。
セリーヌ様を支えるように、裁判席に背を向けるゴードン伯爵家皆様。
「どこに行くつもりだ? ゴードン伯爵」
裁判席から問い掛ける裁判官に、顔だけ向けると嫌悪感を顕にした顔で言い放った。
「娘が倒れたんだ、帰るに決まってるだろうが!!」
言うだけ言って、そのまま立ち去ろうとした。だが、前に立ち塞がった騎士により、ゴードン伯爵家の面々は足を止める。今度は目の前の騎士を標的にするゴードン伯爵。しかし、それはできなかった。
「さっきまで、淑女とは言い難いほどの大声を上げていたのにか。裁判の放棄は認めない。だが、私も悪魔ではない。念のために医者をこの場に配置させよう」
裁判官がそう告げると、事務官の一人が出て行く。
これで逃げ道を完全に失いましたわね。まぁ逃げ道といっても、この場からだけですけど。
それにしても、本当に愚かですわね。完全に裁判官を敵に回しましたわ。セリーヌ様たちがした行為は、神聖な裁判を穢す行為ですもの。とはいえ、裁判官が自分の情に左右されることはありませんが。
「なっ、なにを!?」
「なんと、無体なことをなさるのですか!!」
ゴードン伯爵と夫人が裁判官にくってかかっています。
つくづく愚かなのは、改めて理解致しました。なので、そろそろ、その茶番を終わりにして頂きたいのですが……裁判がちっとも始まりませんもの。なので、
「……裁判官、私から提案があるのですが」
早々と茶番を終わらせたいのです。
「提案ですか?」
私の発言に、ゴードン伯爵家の皆様は一斉に顔を上げ、私を苦々しく睨み付けています。
その様子に心底呆れましたわ。体調が悪い振りをするなら最後までしないと……ほら、傍聴席の皆様に見られてますわよ。
「セリア皇女殿下に対して不敬な……」
「裁判をなんたると思っているんだ!!」
「恥を知れ!!」
野次とコソコソと囁く声がいい感じに混じってますわ。
私は傍聴席からの声を気にせず、自分の考えを裁判官に告げました。にっこりと微笑みながら。
「ゴードン伯爵令嬢が一人で心細いのならば、御両親がご一緒なされば宜しいのでは? 私は別に構いませんわ」
座る席なんて些細なことですもの。元々、私の標的はゴードン伯爵家なのですから。
さぁ、始めましょう。
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