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裁判が始まりました

第一話 謝罪という言葉を知らないようです

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 皇女である私が起こした裁判だからか、裁判所内で一番広い部屋で開廷されることになりました。

 通常、この部屋で行われる裁判は、連続殺人や政治犯罪者などの、世間を騒がした重罪犯に対してのみの使用でしたのに。民事でこの部屋が使われるのは、私が初めてではないでしょうか。だからか、傍聴席も桁違いに多いです。

 当然、当事者である私は二十分前に入廷し着席しています。シオン様はお父様とリム兄様と一緒の特待席に。私側の傍聴席の最前列にはアレク隊長が座っています。婚約者とはいえ、当事者でない者がこちら側には入って来れませんもの。

 だけど、シオン様は常に私の隣にいてくれます。私はピアスにそっと手を添えるだけで、シオン様の魔力を感じますの。それだけで幸せで、自然と口元に笑みが浮かびます。私はさほど意識をしていたわけではありませんが、その笑顔は傍聴席の皆様にバッチリ見られましたね。

 ちなみに傍聴席は、私が入廷する前にはもう満席でした。ほぼ、高位貴族で占められてますね。ウィグス公爵も傍聴席に座ってますね。元侯爵夫人は……あぁいましたわ。かなり末席に。当然ですわね、彼女はもう侯爵夫人ではないのだから。そうそう、セリーヌ様と婚約破棄をしたクニール公爵家のレイモンド様も、何故か平然と最前列で着席なさっておいでですわ。

 さり気に視線を向けたのに、気付かれ、にっこりと微笑み返されましたの。瞬間、背筋がゾワッとしましたわ。本能的に受け付けないようです。ウィリアム元王子に次ぐ二人目ですわ。

 客観的に見て、例え不貞で婚約破棄していても、学歴、家柄、容姿、全てにおいて、社交界ではかなり好印象を持たれるでしょうね。実際、クニール様を見詰めている婦女子が多いですわ。何故か、男性の方もいるようですが……謎ですわ。

 シオン様以外は、私には同じにしか見えませんけどね。いくら、容姿が良くても。

 チラリと皇族席に目をやれば、シオン様がレイモンド様を険しい目で睨み付けていました。アレク隊長もです。二人とも殺気を抑えられているようで安心しましたわ。だって、裁判の進行が遅れるのは嫌ですもの。

 そんなことを考えているうちに時間は過ぎ、裁判開始五分前になりました。

 傍聴席がざわ付き始めます。そうでしょうね。ゴードン伯爵家の方々は誰一人来ていませんから。

 姉であるアリーヌ様は元々、この裁判には出席しません。診療所で療養していますから。その旨、裁判所に提出しております。考えていた以上に状態が悪かったのです。体も心も。それに、古い骨折箇所も治さないといけませんからね。

 反論できる証拠が得られなかったからでしょうか。捏造もできなかったようですし。恥をかくのが嫌だから、裁判に出席しない。まるで、子供のようですわね。

 さてーー

 もうそろそろ時間ですね。間もなく、裁判官が入廷されます。

 開始時間が過ぎても入廷なさらないのなら、裁判は延期になるのかしら。それとも、被疑者がいないままの結審になるのかしら。民事なのでなんとも言えませんわ。これが民事でなければ、延期になるのでしょうけど。

 許されるのなら、ゴードン伯爵家御一行がいないまま結審されるのは避けたいですわ。無理は言えませんが。

 結審されれば、私の勝訴になります。表向きは私の主張が通ったことになりますが、私が主張できなかったことで、どうしてもあやふやなものが残るでしょう。それが嫌なのですわ。

 ーー後、二分。

 刻々と針が進む中、侍女の姿を見掛けました。私は侍女に近付きます。

「……セリア様、ご安心を。間もなく到着なさいます」

 侍女が耳打ちすると、スーと後ろに下がります。

 その直後、裁判官が入廷されました。民事なので一人です。

 私は席に戻ります。

 裁判官は資料を台に置くと、室内を見渡してから一礼し着席しました。私も着席します。

「セリーヌ・ゴードン嬢は入廷していないのですか?」

 裁判官は書記官に尋ねます。

「はい」

「そうですか……セリア皇女殿下、このままゴードン嬢が入廷しなければ、結審したいのですが、宜しいでしょうか?」

 裁判官が私に意見を求めます。

「裁判官、お願いしたい議があります」

「何でしょう」

「後、三十分だけ開廷時間をずらして頂けないでしょうか?」

 私の嘆願に、少し考えた後、裁判官は小さく頷き答えます。

「わかりました。認めましょう。では、開廷は今から三十分後に」

 そう答えると、裁判官は席を立つ。そのまま出て行こうとした時でした。
 
 ガチャ。バタン。

 扉を勢いよく開ける派手な音がしました。その場にいる全員の視線が扉に注がれます。

「ちょっと、押さないでよ!!」

「押すな!!」

「伯爵家に対して無礼な!!」

 おそらく、彼らを連れて来たのはスミスとクラン君ですね。姿は見えませんが。さすがですわ。この場にいるのが私と家族だけなら、絶対黒い笑みを浮かべてましたね。

 我が部下が乱暴に連れて来たかもしれませんが、二人に文句を言う前に、遅刻したことについて謝罪するのが常識でしょうに。子供でもしますよ。

 ゴードン伯爵家の方々は謝罪という言葉を知らないのでしょうか?

 おそらく、知らないのでしょうね。だから、謝罪の仕方もわからなかったのですね。理解しましたわ。


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