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覚悟はよろしくて

第二十四話 裁判前夜

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「……いよいよ明日だな、セリア」

 いつもより早く仕事を切り上げたシオン様。私を膝の上に乗せ気遣ってくれます。

 私はその厚くてしっかりとした大きな胸に頬を寄せ甘えます。いつの間にか、ここが一番落ち着ける場所になってしまいましたね。少し前までは、とても恥ずかしかったのに。あっ、シオン様の鼓動が一段と速くなりましたわ。こんなお子様体型の私でも意識されてると感じ、自然と口元に笑みが浮かびます。

「ええ……この一か月、やるべきことはしましたわ」

 皆と協力して。

 私が起こした裁判なのに、シオン様を中心に皆が力を貸してくれましたの。仕事が忙しく大変なのに、その合間をぬって。感謝しかありませんわ。いつか、この恩をお返ししなければなりませんね。

 それはさておき、ゴードン伯爵家が生き残るためには、私が不貞をしていたという証拠を提示するしかありません。

 それも、セリーヌ様の元婚約者である、クニール公爵家嫡男レイモンド様とです。まぁ証拠が出せなくても、それを匂わせる証拠があれば、少しは心象が良くなると思いますが、私を含め皆が許すわけありませんわ。

 限りなく勝算は低いですわね。当然、ゴードン伯爵家側がですよ。

「そうだな。やるべきことはやった。だから、心配しなくていい。セリアは俺が護る」

 頭を撫でていた手が頬へと下りてきます。低くて真剣なその声に、私は自分の全てを委ねます。

「はい。しっかりと護ってくださいね、シオン様」

 私は頬を撫でる大きな手に自分の手を重ねました。とても硬くてゴツゴツとした手です。柔らかさなんて全くない手です。

 でもこの手が、コンフォート皇国を、私をいつも護ってくれます。

 愛しくて、愛しくて堪りませんわ。だから、シオンの手にソッと口付けます。私にしては自然な流れだったのですが……

「セリア!! あれほど、煽るなと言っただろ!!」

 ビクッと体を強張らせたシオン様に叱られてしまいましたわ。ついでに、膝から下ろされました。一番の癒やしの場所を取り上げるなんて。それには、ちょっとばかりムッとしてしまいます。

「煽る? 特に煽るようなことはしていませんが。もしかして、手に口付けしたことですか? それ、シオン様も私によくしてくれますよね」

 何故私がしたら、煽るのか、詳しく説明して欲しいですわ。

「男と女は違う!!」

「何故です?」

「どうしてもだ!!」

「それでは、わかりませんわ!!」

 この頃、こんな諍いをすることが多くなりましたの。本当は、こんな諍いなんてしたくないのに。

 それもこれも、私が気が強いから……素直にごめんなさい、ができないからなのはわかってますわ。

 歴代のお花畑さんたちには頭を悩ましていましたが、実は少しだけ羨ましいと思っていた面がありましたの。可愛らしさや素直さなどの、愛され要素を持っていましたから。私は一切持ち合わせておりません。表情豊かでもありません。反対に、キツく冷酷な性格だと認識されています。それは仕方ありませんわ。今までの行動や言動を見た方々はそう思うでしょうから。誤解される性格だと、自分で自負しておりますわ。
 
 他者にどう思われようと構いませんが、シオン様の前では可愛らしく、時には大人らしい女性でありたいのです。

 な、なのに、何故悩む私を見て、シオン様は笑っているのですか!? それも、そんな優しい笑顔で。それが、大人の余裕なのですね!! ……とても複雑ですわ。シオン様が悪くはないのですが、拗ねてしまう私は、やっぱり子供なんだとつくづく思いましたわ。

 だから私は、セリーヌ様の発言に強く反応してしまったのですわ。

 
 
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