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覚悟はよろしくて

第二十一話 床が似合いますわ

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 放課後、約束通りにリーファと町に繰り出しました。何故か、隣には侍女の一人がいます。下着を買った際、同行した侍女ですわ。

 目的地の石鹸屋さんに到着。

 ここは石鹸だけでなく、香水や化粧品などの女子力を上げる用品も一緒に販売されていますの。だから、学園の女生徒だけでなく、この町に住む女子にとって、この店はなくてはならないお店なの。町一番の人気店ですわ。

「選ぶとしたら、薔薇の香りかしら……」

 少しでも大人の女性を演じたいなら、やはり花の中で、一番華やかな薔薇の香りがいいと思うのですが……私に薔薇の香りが似合うかしら。

「そうね。別に香水を選ぶんじゃないし、石鹸は薔薇でも大丈夫だと思うわよ」

「そう? 香水と一緒に買おうと思っていたのだけど」

「セリアには薔薇よりも、百合か、柑橘系の香りが似合うと思うわ」

「薔薇は駄目なのね……」

 手に取っていた薔薇の石鹸を棚に戻します。思わず溜め息を吐いてしまいましたわ。

 薔薇って大人の女性の香りですものね。私のような幼児体系の小娘が似合うわけないですわね。付けたら付けたで、背伸びしてますって言っているようなものですものね。わかってましたわ。……ちょっと、泣いていいですか。

「う~ん。もう少し、背丈とここが育ったら似合うと思うわよ」

 そう言いながら、頭と胸元を指で突くリーファ。

「リーファ!!」

 思わず、叩く振りをします。リーファは笑いながら受け止めた時でした。

「あらあら。公爵家の令嬢を殴ろうとする者がいるなんて、学園って、よほど自由気風が強い所なのね」

 すぐ側で、明らかに私たちを馬鹿にするような声がしました。

 私の癒やしを邪魔するのは誰!?

 私とリーファは自然とじゃれ合いを止め、声がした方へと視線を向けます。やや険しくなっているのは仕方ありませんよね。

 そこにいたのは、私たちより少し年上の女性でした。三、四歳でしょうか。見た目と話し方はどこかの貴族令嬢のようなのですが、雰囲気は全く正反対ですね。擦れているというか……下品というか、そういったものが全身から滲み出ています。貴族令嬢とは程遠いですわ。

 内面下では不快感を顕にしている私の横で、リーファが息を呑み体を強張らせているのに気付きます。隣にいる私にしか、その変化は気付かない程度でしたが、リーファにしては珍しく動揺してますね。

 もしかして、この下品な女とリーファが知り合いですの!? 

「リーファ、向こうに行きましょ。百合の香りが気になりますわ」

 私は下品な女を無視して、リーファの腕を半ば強引に引っ張ります。

 すると、女は店の中で怒り出した。

「待ちなさいよ!! 私を無視するなんて無礼な女ね!! 私は公爵令嬢よ!! リーファの姉よ!!」

 リーファの姉!? それはおかしいですわ。セフィロス公爵家には二人しか子供がいなかったはず。

「おかしなことを仰る方ね。私には姉はいませんが」

 リーファが公爵令嬢をしていますわ。

 つまり、除籍されたってことかしら? それとも、従姉妹? どちらにせよ、排除した方がいいですわね。

 私は傍に控えていた侍女に目配せをすると、侍女は誰にも気付かれずにその場を離れた。勿論、町を警護する騎士を呼ぶためですわ。

「リーファ? この方は何かしらの病気を患っているのかしら?」

「でしょうね。全く、面識がないもの」

「そう……なら、病気なのね。お可哀想に」

 私とリーファは同情する表情を周囲に見せます。これで、この方とリーファは無関係を強調することができましたわ。

「何言ってるのよ!! 私に対してなんて口を!! 私はリーファの姉よ!! ……でもまぁ、心が広い私は許してあげるわ。その代わり、貴女の代わりに私が叔父様のところに行ってあける。いい? これは決定事項よ!! それに、貴女は私が侍女として雇ってあげる。感謝しなさい!!」

 この私を侍女に!? なんて、おかしなことを仰るのかしら。口元に笑みが浮かびますわ。

「……なにを笑ってるのよ。気持ちわーーギャ!!」

 更に暴言きましたわ。最後まで言えませんでしたけど。戻って来た侍女が抑え付けてますもの。汚い口調の貴女には、その床が似合いますわ。

 そのまま、駆け付けて来た騎士によって運ばれて行きましたわ。最後の最後まで、ギャンギャンと騒いでましたね。ほんと、下品なこと。

 
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