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覚悟はよろしくて
第二十話 癖
しおりを挟む「セリア、何かあった?」
いつもと同じようにテラスでランチを食べていると、リーファが少し表情を曇らせ尋ねてきました。
「……別に何もありませんわ」
さすがリーファ、鋭いです。一瞬、言葉が詰まりましたわ。リーファのことだから、否定しても、何かあったと確信したでしょうね。
事実、私の答えに、更に表情を曇らせてますもの。
「そう? なら、いいんだけど……もし、何かあったら遠慮なく相談してね」
深くは訊いてこないリーファに感謝しながら、
「ありがとうございます。その時は宜しくお願い致しますわ、リーファ」
にっこりと微笑み答えます。
裁判を一週間後に控え、どうしても意識がそちらに向いていました。リーファとの楽しいランチの時間でも。駄目ですね。
予想していた通り、商人たちはゴードン伯爵家と元侯爵夫人に力を貸しはしませんでした。それを知った時の彼女たちの顔と、後の行動が、あまりにも常識を超えていましたの。なので、裁判では、さぞかし道化を演じてくれるでしょう。今も十分道化を演じてくれてますけどね。
彼女たちは、私が圧力を掛けたとギャンギャンと騒いでいますが、私は掛けていませんわ。当然、追い込んでもいませんよ。何もしていません。スミスたちにも指示を出しておりません。念のために監視は付けてありますよ。ただそれだけです。勝手に向こうが自滅していくのです。敢えて、それを止めようとはしませんが。
残念ですが、このことはリーファには話せませんよ。だって、我がコンフォート皇国の恥ですからね。リーファの前でなければ、溜め息を吐いてますわ。
「…………何も訊かないけど、ちゃんと寝ないといけないわよ。睡眠不足は美容の敵なんだから」
リーファは手を伸ばし、私の目の下を優しく撫でます。もしかして、隈ができてるのかしら。最近、少し寝不足でしたから。
「ありがとうございます、リーファ。そうですね、シオン様に心配かけてしまいますものね、気を付けないと」
それでなくても、心配性なのだから。
私がそう答えると、リーファは呆れたようななんとも言えない顔で苦笑します。
「本当に、セリアはコンフォ伯爵のことが好きなのね。気付いてる? セリア。コンフォ伯爵様の話をする時、いつもピアスを触るのよね。微笑みながら」
ニコッと笑いながら、リーファは教えてくれました。
えっ!? 気付きませんでしたわ。恥ずかしい。思わず、顔が赤くなります。照れから、リーファを軽く睨みます。
「もっと早く教えてくれてもよかったのに」
つい、文句を言ってしまいましたわ。
「可愛いんだからいいじゃない。ほんと、セリア、幸せそうで良かったわ」
微笑みながら、リーファは言います。
リーファ……?
その笑みが少し寂しそうに感じたのは、私の気のせいでしょうか。
「リーファ、今度の休み、一緒に街に遊びに行きませんか? 買いたい物があるんです」
私もリーファも、自分のことを相談するのは難しい立場でしょう。だけど、寄り添うことはできると思うのです。
「……いいわよ。何が欲しいの?」
少し言葉に詰まりながらも、そう答えたリーファの笑顔は、やっぱりいつもと違っていました。
「花の香りがする石鹸が欲くて」
「下着は買わなくていいの?」
クスクスと笑いながら、リーファは言います。
「リーファ、喧嘩売ってますの? 買いますわよ」
「ごめん、ごめん」
笑いながらの謝罪は謝罪とはいいませんわ!!
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