婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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覚悟はよろしくて

第十九話 馬鹿とお花畑

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 スミスからの報告を受けながら、ふとある考えが頭を過りました。思わず口にします。

「ゴードン伯爵夫人は、自分の親友が、まだ侯爵夫人だと思っているのかしら?」

 普通なら、疑問を持つこと自体おかしな話ですけどね。

 裁判所からの書類を受け取った日、彼らはウルグス侯爵家に突撃して門前払いされた。

 当然ですよね。

 その時点で侯爵夫人は既に離婚され、実家に返された後。侯爵自身も大臣職を辞しました。近いうちに、息子に当主を譲る予定ですわ。

 そこで察したらいいのに、誰に聞いたか、翌日恥ずかしげもなく、堂々と元侯爵家夫人の実家を訪れてますからね。今日もセリーヌ様と一緒に。だから、そんな考えが頭を過りましたの。

「思っているのでは。そうでないと、普通縋り付こうとはしないでしょう。二人とも、叱られたくらいにしか捉えていないのでしょうね」

 疑問を口にしたらスミスに肯定されましたわ。

 やっぱり……

 そうとしか考えられませんよね。もう、苦笑するしかありませんわ。

 さぞかし、ご実家は頭が痛いでしょうね。とんだ疫病神が戻って来たと、思っているに違いありませんわ。心底同情します。確か、実家は伯爵家だとか。私なら、戻って来たその日に領地に送り蟄居させますね。決して、ゴードン伯爵家の者とは会わしませんわ。だってそうでしょう。家と家族を護らないといけませんもの。たった一人の馬鹿のせいで、家と家族を不幸な目に合わしたくはありませんわ。

「スミスの言う通りでしょうね。なら、元侯爵夫人も、自分がまだ侯爵夫人だと思っているのかしら?」

 実家に返されてるのに。

 離縁しているのに。

 それとも、離縁したことを知らない? 

 さすがに、それはないですわね。だって、離縁状は自分でサインしなくてはいけませんからね。読まないでサインしたなら……いいえ、さすがにそれはないでしょう。馬鹿だとしても。ないと思いたいですわ。

 離縁が成立している以上、彼女は既に侯爵家と関わりのない人間です。責任をとるとなったら、実家でしょうね。

「まさか、と思いたいですが、お花畑の方々なので、一概にはなんとも言えませんね」

 確かにその通りですね。

「まぁ、離婚していないと勘違いしていても、特に問題ありませんけどね」

 私の敵ではありませんわ。

「問題どころか、さぞかし、場を盛大に盛り上げてくれることでしょう」

 スミスの台詞に、思わず、想像してしまいましたわ。笑みが漏れます。

「ならば、こちら側も徹底的に対処致しましょう。皇女である私を貶めようとするのです。覚悟はできているのでしょう。まぁ、協力者が現れればの話ですが」

 元侯爵夫人とゴードン伯爵家の二人は、商人を協力者にしようと動いているようですわ。彼らに嘘の証言をさせようとしているみたいですね。

 あまりにも、安直な作戦だこと。上手くいく可能性はかなり低いでしょうね。

 商人って、そこらへんの貴族以上に情報を持っているのです。そうでないと、競争には勝てませんからね。

 当然、侯爵家夫妻の離婚は耳にしているでしょう。何故離婚したのかも知ってるでしょうね。勿論、誰を敵に回してるのかも。この皇国で商売を続けたいのなら、まず、ゴードン伯爵家の話に耳を貸さないでしょうね。 

 じゃあ、次は誰を引き込もうとするのかしら? 楽しみだわ。

 裁判当日がーー


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