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覚悟はよろしくて
第十四話 上映会です
しおりを挟む上映会のために皆で砦を訪れると、ちょうど、アーク隊長がシオン様に会いに来ていたので、一緒に見ることになりました。
さて、お菓子とお茶の準備ができましたので、上映会を始めましょうか。
始まりは、不機嫌そうな濁声でした。
『…………こんな早くに起こすとは何事だ!!』
不機嫌な顔で、怒鳴りながら登場したのはゴードン伯爵家当主。お花畑の父親です。
伯爵夫人は映っていません。ということは、まだ夢の中なのかしら。午前中に届いたとはいえ、普通ならとうに起きていて当たり前の時間ですわ。まぁ、一日牢に投獄されて疲れたのかもしれませんが。あれだけ騒いでいれば当然ですわね。
『大変です!! 裁判所から、このような書状が届きました!!』
血相をかいた執事が、当主に書状を手渡す。
『裁判所が!? 何を言ってる!? 耄碌するのは早いぞ』
文句を言いながら、当主は執事から書状をひったくります。開けて中身を確認する当主。途端に、悲鳴を上げた。
『なんだっ!? これは!?』
わなわなと震える当主。
書状がクシャクシャになってますわ。一応、正式な書類なのに。常識がありませんね。さすが、お花畑の親です。期待を裏切りませんね。
ここで、やっと残りの主役の方々の登場です。
伯爵夫人とセリーヌ様ですわ。あら? お姉様の姿は見えませんね。さすがに、まだ寝てるとは思えませんが……
「セリーヌ様の姉君は、屋根裏に閉じ込められています」
すかさず、スミスがフォローします。
「何故です?」
「一人、貴族牢に投獄されたのが許せなかったようです」
「そんな理由で!?」
姉妹格差があるとは思ってましたが、そこまでとは。そもそも、罪の重さで入る牢屋が決まっただけ。自分たちが犯した罪を反省する気持なんて、さらさらないようね。まぁ、あの牢獄での騒ぎを聞いたら、期待などしませんが。
『お父様、朝からどうしたの?』
『あなた、騒がしいわね』
姉のことを気にもとめずに、呑気な声を上げる二人。そんな二人に、当主は言い放つ。
『あの尻軽女が、私たちを訴えおった!!』
尻軽女ねーー
牢屋でも、似たようなことを言ってましたね。シオン様がキレた言葉ですわ。
あっ……窓ガラスが割れましたわ。室内に霜が……
『はぁ~!?』
頭が悪い返事ですね、セリーヌ様は。
『あなた。朝から、質の悪い冗談はーー』
『冗談じゃない!!』
夫人の言葉を遮るように、当主が怒鳴る。そして、夫人に乱暴に書状を押し付けます。
夫人は押し付けられた書状に目を通した。書かれている内容を理解したのでしょう。その場に座り込みます。
『…………名誉毀損に傷害未遂……』
『何言ってるの? お母様』
呆然と呟く母親に、お花畑は怪訝な顔をしながら尋ねています。
『……皇女殿下が、セリーヌ、お前とゴードン伯爵家を訴えたのだ』
あら、今度は皇女殿下なのですね。
放心している夫人に代わり答えたのは当主でした。その顔色は真っ青です。
『どうして!? 私は何も悪いことしてないじゃない!! 悪いのは、あの女よ!! そうでしょ!? だから、何の咎めもなしに解放されたのよね!!』
お花畑はやっぱりお花畑ですね。何の咎めがなかったら、そもそも牢屋自体投獄されていないでしょ。
『そうよ!! あなた。これは何かの間違いだわ!!』
訂正しないところか、お花畑の言葉を擁護する夫人。
『そうだな。こんなおかしな話はない。今から裁判所に確かめに行って来る』
『お願いしますわ!!』
『お願い、お父様』
ここで、一旦、当主は退場です。残されたセリーヌ様と夫人は、
『……お母様、何かの間違いだよね』
『ええ。何かの間違いに決まってるわ。だから、そんな不安そうな顔をしないで、セリーヌ。貴女のような優しい娘が、訴えられるなんて間違ってるわ』
弱気の声を上げる娘を抱き締めながら、夫人は自分に言い聞かせるように励ましています。そん茶番を演じている二人を、執事はやけに冷めた目で見ていたのが印象的でしたわね。
一旦ここで、映像は切れました。もちろん、続きはありますよね。
「…………あまりにも酷過ぎて……言葉にならない」
アーク隊長がぼそりと呟きます。ショックが大き過ぎたようですね。お花畑に対しての免疫がありませんもの。握り締めた手から血が滴り落ちていますわ。私はアーク隊長の手を包み込むように触れると、回復魔法を掛けます。
シオン様は口元から。箍が外れたのか、殺気を放ち続けるシオンの口元に触れ、アーク隊長と同じように回復魔法を掛けました。何気に振り返れば、皆同じような状況でした。
回復している間も、空気が震えています。
殺気って、放ち過ぎると、このように空気が震えるのよね。あ……森がざわめいてますわ。
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