上 下
194 / 341
覚悟はよろしくて

第十三話 側近

しおりを挟む


 子供の手紙にいったい何が書かれているのか、物凄く気にはなりましたが、シオン様は明かす気はないようです。一か月後までお預けですね。仕方ありませんわ。手紙の件はひとまず横においとくことに致しましょう。

 なら、仕事をさっさと片付けましょうか。

 一日休んでいた分の仕事と今日の分を終わらせ、一息吐いていると、スミスがお茶と共にあるものを二つ持って来ました。すぐに、私はピンときます。自然と、口元に笑みが浮かびましたわ。

「お父様には?」

「まず、セリア様とシオン様が確認されてからだと思いまして」

 尋ねると、スミスは悪びることなく答えます。それを聞いて、更に笑みを深くする私。

「スミスの主は私ですもの。先に私が確認するのは当然ですよね」

 ニコッと笑いながら答えます。

「はい」

「それじゃあ、今日の仕事も終わったことですし、皆で見ましょうか? 確か……今日、シオン様は夜勤ですよね。なら、砦に行きましょうか」

「「「はい」」」

 スミスと侍女二人が返事します。皆、良い笑顔ですね。その中で、一人返事をしない人がいました。

「あれ? クラン君は興味ありませんか?」

 お花畑一家が慌てふためいている姿。

 私たちの視線が、一斉にクラン君に向きます。あっ、もしかして、悪趣味だと思っているのでは。呆れて付き合えないと思っているとしたら、悲しいですわ。

「……俺が見ても宜しいのでしょうか?」

 ん? 何を言ってるのかしら?

 返ってきた言葉は、想像していたものとは違いました。

「見ていいに決まってるでしょ。どうして、見ていけないと思ったのです?」

「それは……俺は、セリア様に忠誠を誓った者ではありませんし……」

 前々から、クラン君と私たちの間に少し壁があるように感じていました。それはある意味仕方ないと考えていました。だけど、お花畑の件を境に徐々に薄くなっていると思っていましたが……

 もしかして、それは私の願望だったのかしら。

「前に、クラン君も私の側近の一人だと言ったはずですが?」

 さすがに、忘れたとは言わせないわ。

「確かに、そうですが……」

 クラン君は難しい顔でそう答えます。その表情に、少し違和感を感じました。

 もしかして……?

 私の中の側近と、クラン君の中での側近は違うのかもしれない。ふと、そんな考えが頭を過ります。なので、思い切って訊くことにしました。

「クラン君にとって、側近とは何だと思いますか?」

「主に忠誠を誓い、公私共に支える存在だと認識しています」

 やっぱり……想像していた通りの答えが返ってきました。驚きはしませんわ。だって、大半の人がクラン君と同じだと思うもの。でもね、私は少し違うの。

「クラン君の考え方は一般的なのでしょうね。……でもね、私は違うの。……側近とは、一緒に仕事するだけの存在ではありませんわ。時には、私に意見し戒める存在だと考えています。そして、一緒に楽しんだり、苦しんだりする仲間だと思ってますの。そこに、私に対する忠誠を織り込んだりはしませんわ。まぁ、ないよりはあった方がいいですけどね。必須ではありませんわ」

「しかし……裏切るかもしれませんよ」

 クラン君はそんなことを言い出しました。

「裏切るつもりなのですか?」

 反対に尋ねると、クラン君は困った顔をしています。

「そんなつもりはありませんが……」

「なら、いいではありませんか。もし仮にですよ、クラン君が裏切ったとしても、私はクラン君に失望したりはしませんよ。罰は与えますが。……だって、クラン君を仲間にしたのは私です。私に人を見る目がなかっただけのこと。それで、もう一度訊きますが、見たくはありませんか? 素直な気持ちで答えてください。見たくなければ、無理して見る必要はありませんわ」

 にっこりと微笑みながら尋ねます。するとクラン君は、

「見たいです」

 小さな声で、でもはっきりとそう答えました。

 本当にクラン君は素直でまじめですね。そういうところが、クラン君の魅力なのです。汚いものを間近で見ても、染まらず変わらない。それが、どんなにスミスや侍女たち、暗部の皆を癒やしていのか、本人は全く気付いていないようですね。もちろん、シオン様とは別な意味で、私もクラン君に癒やされていますわ。これは、内緒ですよ。シオン様に知られたら、厄介ですからね。



しおりを挟む
感想 774

あなたにおすすめの小説

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。