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覚悟はよろしくて
第十二話 提出しました
しおりを挟む本当なら、その日のうちに帰る予定でしたが、一日ずらしましたの。もちろん、裁判所に用意する書状を作成するためです。
スミスと侍女二人が、物凄くよい笑顔でテキパキと動いてくれましたから、書状はつつがなく作成できましたわ。初めてでしたが。
当然、でき次第裁判所に提出。
スムーズに受理されましたわ。
明日には、裁判所からの書状が関係者各位に送られますね。まぁ表向きは、ゴードン伯爵家とウルグス侯爵家に対してですが、参考人としてクニール公爵家も呼ぶつもりですわ。逃がすつもりはありませんから。呼ばなくても、嬉々として来そうで怖いですが……
裁判所から戻った足で、お父様の執務室に向かいます。シオンも一緒に。
「とどこおりなく、受理されましたわ」
にっこりと微笑みながら報告します。
「それは、よかったな」
「ところでお父様、ゴードン伯爵家の方々を、何も言わずにそのまま解き放ちましたの?」
更に笑みを深めながら尋ねます。
「ああ」
いつもの黒い笑みですわね、お父様。
「裁判のこと、教えて差し上げてもよかったのに」
「ほぉ~。セリアならアイツらに教えるのか?」
心にもないことを言う私に、お父様が尋ねます。
「まさか、教えるわけないでしょ」
そこまで親切ではありませんわ。
「明日が楽しみだな」
お父様の台詞に私は頷きます。
明日、裁判所から、私が起こした裁判の内容が記された書状が届くはずですから。受け取った時の、彼らの反応が見れなくて、心底残念ですわ。
慌てふためくのでしょうか。それとも、理不尽だと憤慨なさるのかしら。はたまた、絶望するのかしら。
一か月間という短い期限で、どのような参考資料を提出するのでしょう。それとも、参考資料を出せなくて情に訴えるのかしら。さすがに、それは裁判では通用しないと思いますが。一か月後が、心から待ち遠しいですわ。
「そうですわね。では、私はこれで失礼しますわ」
「もう、帰るのか?」
腰を上げた私とシオン様をお父様が引き止めます。
「はい。こちらも、参考資料を揃えなくてはいけませんから。忙しくなりますわ」
楽に勝てる裁判ですが、何もせずに勝つのは私の流儀に反しますわ。手を抜くなんて考えられませんわ。となれば、やることがたくさんありますわね。そう思っていたのですが……
「いや、余裕で集まるだろ。十年前の業務日誌はキチンと保管しているしな。その辺は難しくないぞ。それに、セリアに贈ってきた手紙は何かあった時のためにレイが保管してるし、プレゼントに関しては、贈り返したが、その際に何が贈られたか、詳細に記してある」
え……?
業務日誌は理解できますが、手紙とプレゼントに関しては驚きを通り越して、呆気にとられましたわ。だから、思わず尋ね返しましたわ。
「……本当ですか?」
お父様には尋ねます。
「ああ。ちゃんと保管してるぞ。なんなら、読んでみるか?」
やけに楽しそうな声でお父様がそう言うと、シオン様が火がついたように猛反対しました。
「その必要はない!! わざわざ、セリアに汚物を見せようとするな!!」
汚物ですか……いったい、手紙には何が書かれていたのでしょう。別の意味で、とても興味がありますわ。
「裁判を起こした者として、参考資料は把握しとかなければなりませんわ」
「これに関しては、その必要はない」
断として、シオン様は聞き入れてくれません。
「子供が書いた手紙に、それほど神経質にならなくても……」
「あれは、子供の可愛らしい手紙じゃない!!」
シオン様がそこまで言うなんて……
「お父様もお読みになられたのですよね」
「ああ、読んだ。成人していない子供には見せられない内容だったな」
口元には笑みが、しかし、目は全く笑ってはいません。声も冷ややかです。いったい、どんな内容が……とても気になりますが、
「……今は、読むのは諦めますわ。ただ……裁判の際には証拠として提出しますが、宜しいですか?」
「それは構わない。是非とも、公の場で朗読して欲しいな」
お父様って、こういうところがありますね。元屑王子の時も嬉々として流しましたから。
シオン様は渋々了承してくださいましたわ。
いったい、何が書かれていたのでしょう。とてもとても気になりますわ。
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