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覚悟はよろしくて
第十一話 楽しみですわ
しおりを挟む他の国はどうかは知りませんが、皇国は罪人を塔に投獄するのが一般的です。
貴族もそうでない者も。
まぁ簡単に言えば、上階が貴族牢で、下階が市民牢。
しかし皇宮内だから、ほぼ投獄されるのは貴族ばかり。その中で、市民牢に投獄されるって意味は、自ずと理解できるはず。なのだけど……
「……彼らの中に、反省の二文字はないのですね」
思わず、眉をしかめながら、そう呟いてしまいましたわ。
どうやら、彼らは自分たちを被害者だと思っているようですね。だから、反省などしません。牢番や兵士が実力行使で止めようとしますが、止むのはその時だけ。それが更に、スパイスになったようで、エスカレートしています。
吐き出される言葉は、私への怨嗟と皇族批判。そして、義姉様に助けを呼ぶ身勝手な言葉の数々。彼らの中で、私は身分を利用して、二人の男性をもてあそぶ悪女のようです。十年前に一度会っただけですけどね。
ちなみに、お花畑のセリーヌは元婚約者を今も愛する清楚な令嬢らしいですわ。姉は一切出てきませんね。今回の件で、姉はおそらく婚約破棄されるというのに……伯爵夫妻にとって、姉妹の比重にかなりの差があるようです。同じ塔に収容されていることを知っているはずですが。姉は、彼らの醜い声を聞き続けて何を思い考えるのでしょう。
姉のことを考えると、更に眉間の皺が深くなります。自傷しないように、注意しなければなりませんね。
ある程度想像できた私でさえ、眉をしかめるほどに酷い。となれば、免疫の少ないお父様や、全くないシオン様にとって、ゴードン伯爵家の醜さがどう映るのか、容易に想像できるでしょ。
人って、怒りの感情が極点まで達すると、無表情になるのですね。シオン様とお父様の無表情を初めて見ましたわ。
これ……間違いなく、死者がでますね。そう思っていたのですが……
飛び出そうとしたシオン様を、お父様が無理矢理、【拘束魔法】を行使し止めます。その魔法も、すぐに解けかけます。
「シオン!!」
「邪魔をするな!!」
怒りで血走った目をするシオン様に、お父様は低く冷たい声で言い放ちます。
「今、殺したら、奴らを楽にするだけで、セリアの汚名を晴らすことはできないぞ!! それでもいいのか!?」
「だがっ!!」
お父様の言うことは理解できても、シオン様の怒りは治まらないようです。ならば、ここは私の出番ですわね。
「シオン様、お父様の仰る通りですわ。ここで彼らを手にかけたら、私たち皇族が権力で有耶無耶にしたと印象付けてしまいます。それはとても嫌ですわ。悲しいですわ」
シオン様の前に立ち、私は頬に手を添えお願いします。
「しかし……」
シオン様は怒りと辛さが入り混じった表情で、私を見詰めます。
「わかっておりますわ。シオン様は私を護るために怒ってくださったのですね。その気持ちは、とてもとても嬉しいですわ。ならば、もう少しだけ、我慢して頂けませんか。ほんの少しでいいのです。……それで宜しいでしょ? お父様」
前半は切実にシオン様に訴え、最後はお父様に確認します。
「ああ。この皇国は法治国家だ。正々堂々と裁判をしよう」
「それが一番ですわ。ならば、私が正式に訴えましょう。名誉毀損と傷害未遂が妥当ですわね。示談に応じなかったのは、ゴードン伯爵家なのですから。そうですね……関係者全員にお越し頂きましょう。それがいいですわ」
私は黒い笑みを浮かべながら、お父様に告げます。背後にシオン様がいらっしゃるので、私の顔は見られずにすみましたわ。まぁ見たとしても、嫌にはならないでしょうけど、私的にはちょっと……これも、乙女心ですね。
「そうと決まれば、さっそく準備に取りかかろうか」
「そうですね。準備するものが多いですから」
やるからには完璧な証拠を用意しますわ。徹底的に潰します。
結局、ゴードン伯爵家の方々とは会わずに、私たちは皇宮に戻って来ました。当然、先程の私たちの会話は魔法で周囲には一声ももれていません。知っているのは、たまたまその場に居合わせた兵士だけですわ。
お花畑のゴードン伯爵家の皆様は、明日の早朝知ることになりますわね。せいぜい、自分が被害者だという証拠を集めてくださいませ。できるのならね。
期間は一か月。
楽しみですわ。
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