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覚悟はよろしくて

第十話 始めから期待はしていません

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 私とシオン様との甘い時間が、お父様の登場で強制終了となりましたわ。

 後五分待ってくれてもよかったのに。そしたら、シオン様と口付けできたのに。融通がきかないんだからと、文句を言いそうになりましたが、ここはグッと我慢します。私にはよくわからないのですが、父親って娘の恋愛は見たくないそうなので、ある意味仕方ないことだと割り切ることにしましたわ。それに、ちゃんとした理由もありましたしね。

 シオン様との時間を邪魔したのは、セリーヌという名の伯爵令嬢。もうすぐ、元が付きますね。こんな騒ぎを連続で起こしておいて、貴族でいられるわけありませんからね。

 皇城内に戻り、廊下を三人で歩いています。向かうは牢屋ですわ。

「……まさか、本当に、単身で突撃されるとは思いませんでしたわ。それで、今どこに?」

 隣を歩くお父様に尋ねます。

 それにしても。やはりというか、お花畑の方の行動は、私たちの斜め上を行くようですね。

「城門で煩く騒いでいたから、今は親子仲良く一緒の牢屋に入ってるぞ」

 親子仲良くですか……まぁ、そうなりますわね。

「そうですか……一緒に。牢番は神経すり減らすことになりますね」

 仕事とはいえ、大変だと心から同情しますわ。特別手当が必要かもしれませんね。

「だろうな。現に、今もこりずに牢屋でも騒いでるらしい」

 お父様にしては珍しく溜め息を吐きながら答えます。お花畑の対応は神経がすり減りますからね。間接的でも。

 お花畑の様子をわざわざ見に行く必要はないのだけど、何を叫んでいるか気になりますからね。おおよその想像はつきますが。それでもね。

「それで、姉の方は?」

 お茶会でセリーヌを庇っていた姉の姿を思い出します。あの様子なら、姉は妹を見捨てはしないでしょ。

「今は貴族牢に放り込んでる。必死で、妹を止めようとしていたらしいが、興奮した妹に突き飛ばされて怪我をした」

 その時の状況、目に浮かびますわ。

「軽症ですか?」

「足を捻ったのと打ち身だ。心配する必要はない」

 心配はしてませんよ。怪我をしたとしても、自業自得ですしね。妹を止められなかったのだから。

 姉の方が貴族牢で、両親と妹は市民牢。罪の重さに応じてですね。

「わかりましたわ。……ところで、シオン様。シオン様はお花畑の存在を聞いてはいますが、実際に目にしたことはありませんよね」

 一旦、お父様との会話を打ち切り、隣を歩くシオン様に話しかけます。お父様の登場で仏頂面だったのがどこにいったのやら、優しげな表情で私を見つめます。お父様はその様子を見て、「キモッ」と声をあげています。当然、無視ですわ。

「ないな。かなりぶっ飛んだ奴らだってことは聞いているが……」

 シオン様は少し眉間に皺を寄せながら答えます。

「ぶっ飛んではいるのですが、方向性が違うというか……」

「方向性?」

 わかりにくいですよね……

 シオン様の眉間の皺がさらに深くなります。あ~そのお顔も野性味があってカッコイイですわ……こういうのを、大人の魅力っていうのですね。そんなことを思っていると、

「セリア……」

 お父様の呆れた声がしました。

 途端に我に返ります。危ない、危ない。お父様に感謝ですわ。シオン様の大人の色気にフラフラしそうになりました。マヌケ顔になっていませんか? 慌てて表情を戻し、シオン様の問いに答えます。すでに手遅れかもしれませんが。
 
「……ぶっ飛んでるって表現を、遥かに超えるものだとお考えください」

 俯いたまま、やや、低い声で一気に言いましたわ。途切れずに答えられてひと安心。危なかった……シオン様に見とれていましたわ。隣にお父様がいなかったら、腕にしがみついていましたわ。さすがに、お父様の前でそれはできません。

「想像ができないな」

 シオン様の困り顔。最高ですわ。

「直ぐに、わかりますよ。ほら、聞こえてますでしょ」

 地下牢に下りる塔の扉をわずかに開けると、私はシオン様に告げました。

 反響して聞こえる泣き声と、恨みの声。

 私の名前と義姉様の名前も出ていますね。その度に罪が増えているのに、叩いてでも止めないなんて……本当に甘い親ですね。まぁお花畑の親は、大概そうなんですけどね。始めから期待はしていませんわ。



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