婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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覚悟はよろしくて

第九話 謝らないで

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 話し合いが終わった後、始まった追いかけっこ。

「どうして、逃げるんだ?」

 皇城の屋根の上。膝を抱えて座ってると、シオン様に追い付かれました。

「……別に、逃げてはいませんわ」

 明らかに無理がありますね。

「城内を駆け回って逃げてないって、かなり無理があると思わないか?」

 シオン様の顔が見れないから、どういう表情をしてるかわかりませんが、呆れと苦笑が入り混じった声音です。

「…………ありますわね」

「どうして逃げるんだ?」

 シオン様は同じ質問をしてきます。

「わかりませんわ。本当に、わからないのです。どう説明していいのか……ただ、赤い顔を見られるのが恥ずかしくて……」

「だから、逃げたのか?」

 シオン様の問いに小さく頷きます。

「そうか……俺を嫌って逃げたわけじゃないんだな」

 え……? 何を言ってるの……

「それは違いますわ!!」

 反射的に、シオン様の方に顔を向け否定しまいた。

 だって、違いますもの。私がシオン様を嫌うわけないじゃないですか。なのに、シオン様はどこかホッとしたような顔をしています。もしかして、傷付けたのですか……?

「そうか……なら、よかった」

 普通に微笑んでいるのに、私にはシオン様が泣いているように見えました。おかしいですね。四十を越えた男性を見て、そう思うなんて。それでも、そう見えたのです。だから私は、

「シオン様!!」

 立ち上がり、シオン様の胸に飛び込みました。

「セリア!?」

 戸惑いながらも、しっかりと受け止めて抱き締めてくれるシオン様。

「……逃げてごめんなさい」

 シオン様の胸の中で小さな声で謝ります。

「俺の方こそ、セリアの気持ちに配慮できなくてすまなかった」

 何故、シオン様が謝るのですか。私を気遣うその優しさが、私の心を甘く締め付けます。

「シオン様が悪いわけではありませんわ。だから、謝らないでください」

「セリア……?」

「謝らないで……」

 赤くなった顔を見られたくなかったのは照れたから。今まで、シオン様に見られて困るものはなかった。でも今は……

「セリア?」

 さっきから、私の名前しか口にしてませんね。愛しさが湧き上がってきて、自然と口元が綻びます。

「シオン様。これから何度も、こんな追いかけっこをするかもしれませんね。その時は、今のように抱き締めてください。でも、勘違いなさらないで。私が逃げるのは、シオン様を愛しているからですわ」

 以前の自分とは違うことに戸惑いはあります。でも、これだけは断言できますわ。

「……わかった。正直、あまり逃げてほしくはないが、何度でも捕まえてやる」

 緑の目に微笑む私が映っている。

「はい。捕まえてくださいませ」

 そう告げながら目を閉じます。

「セリア、愛してる……俺の運命の番……」

 シオン様の吐息が唇を撫でます。その時でした。

「セリア、シオン、何をやってる?」

 邪魔が入りました。誰とは言いませんわ。顔を上げなくてもわかります。ここ、皇城の屋根の上なのに。お父様には関係ありませんでしたね。

「お父様」

「レイ」

 私とシオン様の声が、とても低いのは仕方ありませんわ。いいところで邪魔をするんですもの。ほっといてくれたらよかったのに。

「お父様、何か御用ですか?」

「あるなら、さっさと言え」

 中途半端な用なら、容赦はしませんよ。

「セリアの予想通り、例のお花畑が突撃してきたぞ」

 やけに良い笑顔で、お父様が教えてくれました。続きは、もう少し後になるみたいです。

 私とシオン様の邪魔をするなんて、セリーヌ、許しませんわ。

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