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覚悟はよろしくて
第八話 逃げられなさそうです
しおりを挟む私が甘い雰囲気をだすのは似合わないのはわかってますわ。口には出しませんけど。
お父様の失礼な言動は横に置いといて、ウルグス侯爵家とゴードン伯爵家ですが、ここは専門家にお任せましょう。
一旦、シオン様から離れ姿勢を正します。お父様とリム兄様に視線を合わせると、気持ちを切り替え、不敵な笑みを浮かべながら告げました。
「……取り敢えず、ウルグス侯爵家とゴードン伯爵家については、お父様とリム兄様にお任せするとして、不貞を勘違いされたままは癪ですわ。それに、公の場で否定しないと、後の社交界で困りますから、きちんと対処しないといけませんわね」
告げながら、笑みを段々深くしていきます。お父様も私と同様、不敵な笑みを浮かべ仰いました。
「ならば、訂正する場を設けよう」
お父様の提案に、私とシオン様は頷きます。
「一回で済ませたいので、全員に集まってほしいですわ」
「当然だ。観客も大勢いれて、徹底的に教えこんでやろう」
お父様の言葉に再度肯く私。
必要最低限しか同席したくはありませんから。クニール公爵家の方々とは。気持ち悪い嫡男は視界に入れたくはありませんけど、ここは我慢しないといけませんわね。そんなことを考えていると、シオン様が肩に手を回し抱き寄せてくれます。
「大丈夫だ。隣には俺がいる。無理に視界に入れなくていい。というか、視界に入れたくない」
男らしい体躯に低い声。そして、熱量のある瞳。最愛の人の独占力に、もううっとりですわ。やけに、この執務室暑いですわね。換気をしましょうか。必死で動揺を隠します。
「セリア……?」
さっきまでの不敵な笑みが消え、黙り込んで俯いてしまった私を心配して、シオン様が覗き込んできます。
「駄目です!!」
反射的に逃げてしまいましたわ。とても恥ずかしくなってしまいましたの。真っ赤な顔を覗かれるのが。自分でもわかりませんわ。今までも、何度も赤い顔を見られたことはあるのに。何故、今回はこんな反応をしてしまったのか。
「……セリア」
シオン様の視線が痛いですわ。
「…………もう、お前ら帰れ」
お父様が心底嫌そうな顔をして、理不尽なことを言ってきます。
「嫌ですわ!! 一晩、泊まります」
そう叫べば、シオン様の表情が苦悶なものに。私を見詰める視線が痛いですわ。立ち上がるシオン様。咄嗟にお父様の後ろに逃げる私。あ……珍しく怒ってらっしゃるわ。
だって……どうして、そんな反応をしたのかわからないのに、捕まれば、絶対、シオン様に詰問されてしまいますわ。逃げるしかないでしょ。
「何、やってるんだ!! お前ら」
板挟みになったお父様が怒鳴ります。
何か……もっともらしいことを言わないと。そうですわ!!
「だ、だって、気になるのです。セリーヌ様がどのような対応をなさるかが。もしかして、皇宮に突撃してくるかもしれませんよ」
咄嗟にでた台詞ですが、口にするとそれらしくなりましたわ。
「さすがに、そこまでは……」
リム兄様がぽつりと呟きます。まぁそれが、一般の反応ですわね。反対に、その隣にいた義姉様は難しい表情をしています。
「あるかもしれませんわ」
義姉様の堅い声が執務室に響きます。シリアスな話をしているのに、シオン様の突き刺さる視線を痛いほど感じます。気付かない振りをして、
「義姉様の言う通りですわ、リム兄様。お花畑さんに常識は通用しませんわ。だってそうでしょ。皇女である私を、非公式の場とはいえ、大勢の人がいる場で、平然と不貞をしているのか訊いてきたのですよ。皇宮に乗り込んでくるかもしれませんわ」
お父様を盾にしながら言います。そんな私に、シオン様は表情をほんの少しだけ緩めます。でも、目が……
「セリア、後でゆっくり話そうか」
どうやら、逃げられなさそうです。
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