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覚悟はよろしくて

第六話 優しさの欠片もありませんね

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 家族だけになりましたので、ゆっくりとお茶を飲みながら話をすることになりました。サロンではなく執務室で。話の内容が内容ですからね。

「ーーそれで、義姉様は始めから知っていたのですか? ゴードン伯爵令嬢が出席していたことを」

 ソファーに腰を下ろした私は、単刀直入に義姉様に訊きます。

「知らなかったわ。知っていたら、セリアちゃんを出席させなかったわ。ちゃんと、事前に出席者を確認したのよ。どこにも、セリーヌの名前は記載されていなかったわ」

 義姉様の声はとても固いものでした。

「ということは、正式な招待者ではないのですか? 招待者でない者が、参加することなどあるのでしょうか?」

 私の質問に、声だけでなく表情も固くする義姉様。

「普通はないわ。セリアちゃんの初めてのお茶会でしょ。だから、私がいた方が心強いかなと思い参加することにしたの。……少し早めに会場に入り屋敷で休んでいたら、ウルグス侯爵夫人が、セリーヌとその姉を連れてきたのよ。気分転換させたいからと言ってね」

 なるほど。わざわざ義姉様の元に連れて来たのなら、セリーヌ様の目的をウルグス侯爵夫人が知っている可能性は高いでしょう。

「それでどうしたのです?」

「私は参加を認めませんでした。セリアちゃんに対してとても嫌な感じがして。だけど……」

「ウルグス侯爵夫人が参加を認めたのですね」

「ええ。可哀想な娘だからと言って。ウルグス侯爵夫人とゴードン伯爵夫人は親友同士。親友の頼みに、無理を通したようですわ」

 呆れてものが言えませんね。ウルグス侯爵夫人の中で、皇族は親友よりも軽きものなのですね。それとも、実の娘だから、何か問題が起きても融通してくれると考えたのかしら。どちらにしても、皇族を軽んじていることにかわりはありませんわ。

「つまり、ウルグス侯爵夫人は皇太子妃殿下の命を背き、皇女であるセリアを害する可能性があることを知りながら、お茶会に参加させたということだな」

 黙って聞いていたシオン様が、とてもとても低い声で言い放つ。その言葉の端々に怒りを滲ませながら。

「その通りですわ、コンフォ伯爵様。セリアちゃんに何かあったらいけないと思い、声を発することを禁止して、私の側に控えさせました。目を離して、とんでもないことをしでかさないように配慮したつもりでしたが、それが却ってセリアちゃんを傷付けてしまいましたわ。ほんとうに、ごめんなさい」

 再度、義姉様は私とシオン様に頭を下げます。

 その言葉に嘘はないでしょう。義姉様なりに私を護ろうとして、あのような不自然な形になったのですね。

「頭を上げてください、義姉様。義姉様が悪いわけではありませんわ」

「ありがとう、セリアちゃん。だけど、私に責任の一端がないわけではないわ。やや乱暴だけど、セリーヌを強引に排除することも出来た。それをしなかったのは私の甘えですわ。皇族の一員なのにね。だから私は、この話し合いの後、自ら謹慎しようと考えています。当然、ウルグス侯爵家とは、今後一切関係を断ちますわ」

 絶縁宣言です。

 義姉様の決意はとても固いようでした。私は何も言えませんわ。誰も義姉様に言わないところをみると、義姉様の考えを尊重なさるようですね。

「……わかりましたわ。その前に、そもそもどうして、セリーヌ様は私に対し悪感情をもっているのでしょうか? このピアスがシオン様からでないと考えた理由は?」

 一度も会ったこともなければ、会話を交わしたこともありません。接点が全くない相手が、それも皇女である私に、あそこまで強気でいれた理由を知りたいのです。
 
「それは、僕から説明しよう」

 義姉様に代わり、リム兄様がそう告げました。お父様はだんまりです。

「セリーヌ嬢は、クニール公爵家嫡男レイモンドの婚約者だった。一か月前に、一方的に公爵側から解消されたが」

 男の名前が出た途端、シオン様が私を抱き寄せます。

「シオン様……?」

 もしかして、セリーヌ様の婚約者を知っているのかしら? 

 そんな考えが頭を過ります。とはいえ、これは確実に怒ってらっしゃるわ。こういう時は、経験上抵抗しない方がいいですわね。恥ずかしいけど。

「解消ですか? 白紙ではなく」

 白紙と解消は似てますが、明らかに大きな違いがあります。白紙は元からなかったことになるのですが、解消は婚約をしていた事実が戸籍に残るのです。

 なのに、一方的に解消とは……元婚約者の未来を潰したと同然の行為ですわね。優しさの欠片もありませんわ。自然と、クニール公爵家の評価が下がります。

 ん……?
 
 クニール公爵家レイモンド様……

 つい最近耳にした名前ですね。確か……思い出しましたわ。あのパーティー会場にいたあの男ですか。気持ち悪い目をした男でしたわ。

「ああ、解消だ」

 リム兄様も嫌悪感まるだしです。

「理由は?」

「表向きは性格の不一致。本当の理由は……レイモンドの不貞だ」

 またですか……最近、そういうのが流行ってますよね。あちこちで。うんざりですわ。セリーヌ様がとった行動と言動は到底許せませんが、同情はしますわ。

「不貞? 恋人でもいるのですか? スミールのように」

「いない。完全な片想いだ。それも独りよがりで拗らせた迷惑なやつだ」

 心底、嫌そうな顔で言い放つリム兄様。ア然とする私。

「……冗談ですよね。そもそも、そんな理由で婚約解消出来るのですか!? 貴族間の婚約ですよ!? 主に政略結婚ですよね。恋愛結婚ではないのに……許す親も親ですね。それで、その巻き込まれた令嬢は誰ですの?」

「あ~~それは、セリア、お前だ」

 とても言い難そうな、嫌そうなリム兄様。

 シオン様の腰を掴む手に更に力が入ります。それだけで、シオン様も知っていたことを知りましたわ。

「…………冗談でしょ」

 そう呟かずにはいられませんでした。



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